繊維ニュース 編集部ブログ

2020 18 Dec

ナイキの姿勢

 

 【東京本社】ナイキジャパンのCMが会員制交流サイト(SNS)上で議論を巻き起こしている。公開から1カ月を経過したが、現在も賛否両論の大激論が交わされているようだ。一部では差別感情に訴える炎上商法という声も挙がっているが、要はそう単純なことではない。

 CMは差別やいじめを受ける10代のサッカー少女の実体験を描いたもの。2分間という凝縮した時間に、国籍や人種差別、SNSを介したいじめ、学校に馴染めない姿を盛り込んでいる。SNS上には「最高」「日本社会のタブーに斬り込んだ」という意見や、「見ていて不快」「スポーツにこの手の話を持ち込むな」といった辛辣(しんらつ)なコメントもある。

 ナイキは紛れもないスポーツ関連のリーディング企業だが、以前からマイノリティーに光を当てる姿勢を明確にしている。これは米本国をはじめ、欧州、アジアでも共通している。そして日本では差別やいじめといった根深い社会問題を選んだのだろう。それも多感な10代少女の実体験をベースにして。

 実はファッション業界を見渡すと近年は保守的で分かりやすいCMが主流になっている。考えさせられる内容は皆無と言っていい。ナイキのCMに登場する少女たちはアイデンティティーについての悩みや周囲から孤立する中で、自我に目覚めていく。スポーツには、自我に目覚める素養があるのだろう。その一方、SNS上には「#NIKE不買運動」というツイートも散見される。しかし、たとえ少数派でもこうした境遇が事実であればこの動画を削除するべきではない。翻ってファッションにその素養はあるか。(市)