繊維ニュース 編集部ブログ

2019 15 Aug

強烈な違和感

 【東京本社】約1年半前、異業種が連携する「クールジャパン・マッチングフォーラム」に出席した際、吉本興業の大崎洋社長(現在は会長)の基調講演があった。自治体の関係者や民間企業の経営トップを前に、ユニークな事例を交えて大いに語っていた(写真)。今になって、まさかこんな事態になるとは微塵も思わなかっただろう。

 同社はアジアに進出する上で、所属芸人をアジア各都市に住まわせてきた。芸人らは台湾やタイ、インドネシア、ベトナム、マレーシア、フィリピンなどで芸能活動を行い、現地のテレビやラジオ、有力誌に登場。徐々に活躍の場を広げており、アジアで受け入れられるベースを固めてきた。政府関係や貿易機関、大手企業との仕事も増え、「苦労しながらも海外のビジネスは順調」と話していた。

 同氏の話術で盛り上がる基調講演だったが、ある発言で会場の空気が一変したのを覚えている。「ウチには6千人の所属芸人がいる。しかし、芸だけで食べていけるのは400人だけ。吉本興業はとにかく希望者を受け入れる。ハングリー精神というか、チャンスを待つ芸人が非常に多い」と話した。ビジネスチャンスを海外に広げた意義を強調し、この発言に感心する出席者もいた。しかし、私の前に座っていた数人の経営トップは違和感を持ったようだった。

 残りの5600人はアルバイトで食いつなぎ、副業で稼いでいる芸人もいる。古き良き昭和遺産のビジネスモデルに「これでいいの?」と首をかしげる人もいた。ガバナンスやコンプライアンスが叫ばれる現代にあって、あまりにも旧態依然とした姿勢は経営の根幹を揺るがす一大事に。

 吉本興業にはクールジャパン関連の事業で公金を投入している。前述したマッチングフォーラムもその一環として行われた。研究材料といっては大変失礼だが、同社の経営改革を注視する企業は多いはず。吉本興業VS所属芸人という感情的な構図はさておき、冷静に見守る必要がありそうだ。(市)