繊維ニュース 編集部ブログ

2018 18 Sep

この装置は何でしょう?

 【大阪本社】写真でずらりと並ぶこの装置が何かお分かりだろうか。並んでいるのはクリールだが、普段見掛ける整経機ではない。正解はクリール引きのダブル織機。先日取材にお邪魔した高野口パイル産地の中矢パイル(和歌山県橋本市)の機場の風景である。数年前から取材に来ているが、生地を見せてもらうことはあっても、現場まで入れてもらったのは初めて。

 ダブル織機は、上下二つのビームの経糸を地組織りにして、クリールから引っ張ったパイル用糸を両組織に織り込み、しかも織ると同時にナイフでパイル糸をカットしながら織り進む仕組み。2枚同時にジャカード柄の入ったパイル生地を織る。上下の組織を往復するパイルのジャカードの柄部分は糸の消費量が地糸より格段に多く、たいてい多色が必要なこともあって、いちいちビームに巻いていられず、1本ずつクリールから糸を引っ張ってくる。

 トラック内装の柄と言えば通りの良さそうな「金華山」を得意とする同社の織機十数台はほぼ全てこの形式で、しかも電子式ではなく、紋紙を用いるメカ式ジャカード搭載。これだけの台数でこの種の織機をそろえる機業はもうほとんどないらしく、色糸をコーンアップした何千という糸管がクリールに並ぶ風景は壮観だ。

 製織の理屈は何度も聞いて知ってはいたが、実際に見てみるのとは大違い。準備工程の大半を人力に頼るしかなく、製織までに要する大きな苦労もしのばれる。パイル生地、しかもジャカード柄の織物にかかる手間をあらためて思った。機械メーカーは既になく、ほぼ自社でメンテナンスもしているという。

 IT・AI導入や省人化・自動化・合理化もいずれ必要だろうが、希少な生地に限らず、ある時代の合理性が結晶したと言ってよい製織方法そのものにもある種の美しさがある。なんとか少しでも長くこの風景のまま、生産が続いてほしいと願わずにはいられない。(典)