芹澤 絵美

2018 07 Jul

田舎暮らしの油断

一昨日のことです。
うちのヴィンヤードが管理している別のブドウ畑に仕事に行きました。

そこは崖下が海になっている急斜面の畑で、
いつもならアスファルトの道路上に車を停めて畑に行くのですが、
作業予定の畑が一番下だったので、
荷物も重いし、いわゆる農道を通って近くに駐車することにしました。

昨年の夏も何度も行ったことのある場所。
ただ、ぬかるみ激しい雨季の冬に車で行くのは初めてでした。

途中までは砂利道になっていてタイヤのグリップはバッチリ。
ただデコボコなのでそれだけ走行に注意しながら進みます。

目的の畑の前は砂利道ではなく完全なオフロードで、
でもそこでしかUターンが出来ないので、
一応土の乾き具合をチェックしてからゆっくりと進みました。

Uターンする為に左にハンドルを切った瞬間、
車体が大きく斜面下方に横滑りしました。

マズイ!!という思いと、
タイヤの下に何かかませればもしかしたら脱出出来るかも、
という考えが交錯し、男性スタッフと共にとりあえず脱出を試みることにしました。

けれどやればやるほど事態は悪化し、
タイヤのすべての溝に泥がつまりスリックタイヤ状態。
なにをかませてもタイヤは空転。
それどころか、少しずつ滑り落ちて行くのでした。

ヘタをすると大木の間をすり抜けてノンストップで崖下まで滑り落ちてしまうかも、
という状況になり、そのままその日は車をそこに置いて帰りました。

一緒に働いているメラニーが、
この畑の以前のヴィンヤード・マネージャーと旧知の仲で、
彼がなんとかしてくれると思う、と言って連絡を取ってくれました。

そして昨日、救世主となるスティーブが、
トラックでショベルカーを持ってやって来てくれました!!

大型の重機が辿り着けない場所なので、
小型のショベルカー、しかも(当然?!)日本のKUBOTA!

こういう時やっぱりファーマーはすごいなと感じた救出劇でした。
アイデアとスキル、経験あってこその手順で作業は行われました。

牽引用のトア・バーが車の後ろについていてそれを使うのかと思いましたが、
意外にも前輪上方にあるフックにロープを取り付け、
まずは、180度車を回転させ前向きにさせました。

その後は引っ張るだけなのですが、
なにせスリックタイヤになっているので、
僅か5メートルでも土の上ではタイヤが空転し自走出来ない状態。

しかも狭い場所&斜面&角度が付いているので、
ただ単にショベルカーを後退させるだけではうまくいきません。
ヘタをするとショベルカーが前転してしまう可能性もありました。

なので、ショベルカーで牽引するというよりも、
ショベルの首の動きを利用して車を少しずつ動かすという方法を取りました。

トア・ロープが長ければ長いほど引っ張り上げる力が弱くなるので、
80cmくらい車を引っ張ったらロープの緩みをショベルに巻き取り、
また少し車が動いたらロープの緩みを巻き取る、
というのを繰り返しながら、ゆっくり少しずつ引っ張っていきます。

引っ張っている間にも、斜面下方に車が数回横滑りしていくので、
途中で車の角度を変える為にショベルカーを90度移動させたりしながら、
少しずつ少しずつ車を砂利道のほうへと引っ張り上げていきました。

普段一緒に仕事している男性スタッフが運転してくれ、
他2人の男性スタッフが後ろから車を押してくれ、
ついに車を砂利道まで引っ張り上げるとが出来ました!

スティーブが登場するまでは、
男性含め、そこにいたみんなが「最悪の状況」と思っていたのに、
真のファーマーからすれば日常茶飯事のことのようで、
大変は大変だけれど、打つ手は沢山持っているようで本当に感服しました。

私が都会者だったころは、
砂利道でさえも車で侵入することを恐れ、
むしろ都会者だったからこそこういうトラブルとは無縁だったのですが、
田舎暮らしになれ、自分のサバイバル力が少しばかり上がって油断しました。

「オフロードで車がスタックする条件」知識では分かっていても、
経験してみて初めて裏付けが取れたり実感したり限界点を知ることが出来るということを、改めて体でしっかり覚えた感じがします。

運の良いことに晴天は昨日までで、今週末から天気が悪くなるという予報があり、
もしもどしゃ降りにでもなろうものなら、
斜面を落ちてくる急流で車が崖下まで流されていたかもしれません。
しかも、来週からスタッフ数人がいっぺんにホリデーに入るので、
昨日が車を救出出来る唯一の機会だったのです。

車のトラブルはAA(日本ではJAFに相当)にとにかく連絡、
と思っていましたが、このレベルのトラブルは、
AAよりもファーマーのほうが確実な場合もあると勉強になりました。
ロードサービスを利用していたら、
人の手配、場所のリサーチ、重機の手配、と事は大事になり、
日数と費用がかかっていたかもしれません。

知識と経験が増えてきたときには、
過信せずに、自然に対してより謙虚でいなければいけませんね。

なにはともあれ、
昨日はいつものハッピー・フライデーとして美味しいお酒を飲むことが出来ました。

スティーブには今日、12本入りビールを3ケースお礼します。
ファーマーに乾杯!