山中 健

2021 31 Dec

2021年行って勉強になった店5選

 

2021年も今日で終わり。今年もコロナ禍による行動制限を受けた年でしたが、コロナ2年目ということもあり、小売においても新たな取り組みが見られました。

今年の締めくくりに私が訪れた店の中で、勉強になった店を5つあげたいと思います。どれも新たなチャレンジをしている店です。チャレンジなので、中には失敗している部分もあります。テーマやコンセプトは良いけどオペレーションでは残念だったり、完成度が今一つだったりしますが、それが勉強になるのでしょう。

つまり「やろうとしていることは時流にあっているけど、収益・顧客満足的に課題あり」という店が、ヒントになったりするのが今ではないでしょうか?

 

 

 

鹿猿狐ビルヂング

奈良市の観光ゾーン、ならまちにある大型コンセプトストアで、中川政七商店の旗艦店。創業の地で新たなチャレンジをしています。主力業態の生活雑貨を軸に、飲食、アート、コワーキングスペースを複合しています。

名前の「鹿」は奈良公園の鹿、「猿」はインショップで入っている猿田彦珈琲、「狐」もインショップで入っている創作和食店の「㐂つね」から取っているのでしょう。創業の地を盛り上げる地域密着と素心、万博によって増える近畿観光客への上質なアプローチ、古民家と和モダンの真新しいビルのハイブリッドなどヒントをたくさん感じます。

ただ、ここの課題は「㐂つね」。有名店のプロデュースで行っており、すき焼きやキツネうどんを新解釈したメニューが売りです。ただ、メニューの格とサービスの格の釣り合いが取れていないのが残念。同社の商品は駅ビルグレードですが、このレストランはそれより遙かに上のグレード。主力業態グレードより上グレードの新業態をやることの難しさを感じさせました。

 

 

松山三越

長らくポジティブな話題がなかった地方百貨店のチャレンジモデルとして勉強になる店です。愛媛・松山は、郊外への商業シフトがますます進み中心街の空洞化が見られる街です。今から10年前には、商店街にセレクトショップや雑貨店なども見られましたが、それが空き店舗になっていたり夜系飲食店に変わっています。同店はその商店街の終点とも言える場所にあり、市電や郊外電車の拠点というターミナル立地に位置する高島屋の後塵を長らく拝し、安売りばかりしている百貨店というイメージでした。

それをリニューアルして今年の12月にグランドオープンしました。テナント売場を増やしたいわゆる「ハイブリッド百貨店」です。婦人服・紳士服を大幅に圧縮。1階には、上質なお土産店と地元由来の飲食店を集結したフードホールを入れ、上層階には高価格な小規模ホテルを入れました。売場にウェルネステーマフロアも設けています。

「サードプレイス的アプローチ」「地元の魅力をアップスケールして観光客へ訴求」「シニア層に向けたエイジフリー&ウェルネス提案」「デジタルを使用したお取り寄せサービス」など国内外の百貨店が取り組んできた改革事例を凝縮したかのような取り組みです。このロケーションでこのような取り組みをすることはとても素晴らしいと思います。

ただ、立地のパワーからみると力不相応なコンセプトであることは否めないでしょう。今後観光客が戻ることを睨んでいるのでしょうが、その前に地元や広域商圏の生活者にリピートできるよう基礎体力を上げて欲しいところです。

 

阪神百貨店本店

大衆百貨店のモデル店が、食を中心としたライフスタイル百貨店として生まれ変わりました。これまで圧倒的支持を集めてきたデパ地下やイートインに加え、パンを中心とした食フロアを1階に、バルなどの飲酒系業態を集めたフロアを地下に、モダンなフードホールを上層階に開発。これまでは散漫だった衣や住はウェルネスをテーマにまとめています。

四方に広がり・拡散している梅田の商業環境を睨み、阪神電車利用客に密着、他商業施設とのモチベーション差異化を図っています。ここでの課題はやはりファッションフロア。同店は梅田のファッションの買い回り動線から考えると、分断した立地にあります。そこでファッションの売上をとっていくには、同店のファッションフロアが目的地になる必要がありますが、ブランド構成を見ると弱さを感じます。食の客層との買い回りを期待しているのかとも思いますが、客層が乖離しているのが気になるところです。

大商業地内の局地立地の捉え方とMDのあり方を考えさせる事例でした。

 

CHOOSE SHIBUYA SHIBUYA

渋谷西武が手掛けたOMO業態です。見るからにお金をかけてコンセプトやデザイン、売場、システム開発をした店です。デザインやテック系からの視点で考えたら「面白い」のでしょうが、商業や生活者からすると不便を感じる店です。

ここで考えせられたのは、商業のプロがもっとテック系の知識を蓄えなければならないということです。プロに任せるということは大事ですが、消費者視線で見てのメリット・利便性を考え、テック系と対峙できて開発されたのか疑問に思う事例です。開発者や運営者の気持ちを考えると辛辣なコメントをこれ以上書きたくないので、ここまでとしますが、小売関係者にはぜひ一度購買経験をして考えていただきたい店です。

 

ららぽーとクローゼット

こちらはSC業界の方にぜひ見てもらいたい事例です。&モールというE Cモールを持つ三井ショッピングパークが、ららぽーと東京ベイに開発したOMO業態です。クリック&フィッティングを軸に、リペア、3Dボディスキャナー、ラウンジなどのサービスをミックスしています。

館内各所に設置した同業態を紹介するPOP「ららぽーとってちょっと広すぎない?」というキャッチコピーが示す通り、館内にあるブランドをワンストップで試着できるということが売りのようです。ただ、同館の多くの顧客は、目的の店を回って試着することに慣れているせいか、利用客はまだ少ないように思います。コンセプトやサービスの品揃えは素晴らしくても、消費者の購買行動を変えることは時間がかかることを実感した次第です。

 

 

こちらにあげた5つの店はいずれも業界初とも言える取り組みです。なので、近くに行ったらぜひお客様体験をして欲しい店ばかりです。そしてそこで感じた驚きや不満が新たなヒントとなるのではないでしょうか。

 

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