山中 健

2020 20 May

「JCペニー」と「ジェフリー」も

米国大手小売り「JCペニー」が経営破綻し、大手百貨店「ノードストローム」傘下のハイエンドセレクトショップ「ジェフリー」が閉店したと報道されました。両方とも一時期各業界をリードしたプレイヤーで、同時期に流れたニュースですが規模や業態だけでなく、その存在価値も違うと思います。

NYマンハッタンモールにある「JCペニー」

 

「JCペニー」は、業態そのものが今求められていないと思います。ビジネスモデルそのものが難しいのです。今回の破綻は環境変化に適応できず恐竜が倒れたようなものでしょう。

「JCペニー」は、よく百貨店とされますが、日本で多い中高級百貨店ではなく大衆百貨店よりもっと庶民的な業態パッケージ。日本でいうとイトーヨーカドーやイオンから食品売場を抜いたようなもの。量販アパレルとホームセンターの個人ユース部分を足したようなものです。

まさしく、アマゾンが得意とする領域とかぶります。また、今日求められるリアル店舗の様々な要素を兼ね備えてもいません。かつての、アメリカ田舎だったらニーズはあったでしょうが、オンラインの巨人が現れて定着した今、存在余地は非常に少ないと言わざれるを得ません。

2011年にターゲット、アップルでキャリアを積んだロン・ジョンソン氏が、特売からEDLPへ、量販的陳列からデジタル利用のすっきりした売場に変えるなどの施策が行いましたが、立地や客層とマッチせず失策と評価されています。今後再生するとしたら、どのような道があるのでしょうか。非常に興味があるところです。

www.jeffreyusa.com

 

一方「ジェフリー」はノードストローム傘下のセレクトショップ。オリジナル商品はほとんどない、純然たるハイエンドセレクトショップ。リーマンショック前のファッショニスタ志向のセレクトショップの代表とも言えます。

純然たるセレクトショップが超都心で店を続けるのはとても難しいのです。NYの「SCOOP」や「OAK」ロンドンの「プレゼント」などがファッションサイクルとともに去り、また「KITH」などのような新たなスターが生まれるように、まるでシャンパンの泡のように儚いのです。今回の閉業もファッションの新陳代謝の一つとも言えます。時間が経てば伝説の店として蘇るかもしれませんね。

 

セレクトショップが規模拡大するのが難しいのは世界共通。規模を拡大するパターンは大きく2つです。一つはPBを開発して、粗利率を上げて収益構造を改善するというもの。日本の大手のセレクトショップのほとんどがこれです。日本で当たり前となっているこのビジネスモデルですが、欧米では少ないのです。挑戦する店は出て来ますが、多くは失敗しています。

欧米ではファッション市場の中グレードの厚みが少なく、さらに上グレード商材を大胆にディスカウントするため、ニーズが少ないこともこのモデルが育たない理由でしょう。日本はこれまで中間層のニーズが大きく、かつ上グレードのディスカウントも少なかったため大きくなりましたが、今後は環境や消費が変わるため、変容が求められるかもしれません。

 

もう一つは、オンラインのEC事業者として収益を上げるというもの。欧州の「ブラウンズ」「マッチーズ」「ルイーザヴィアローマ」「アントニオーリ」などがその代表です。もともとセレクトショップはブランドを育成するというプラットフォーマー。長い年月をかけて築いた信用をベースにデザイナーやブランドと様々な仕掛けをしながら存在感を増しています。

「ジェフリー」はこのモデルで残すという選択肢もありました。今は、ファーフェッチの中のオンラインストアはオープンしていますが、そのうちに閉じるのでしょうか。親会社の「ノードストローム」フルライン店を16店を閉めましたし、「ノードストローム」のオンラインとカバーできると言えばできますからね。

 

コロナ禍によってこれまで耐えていたヘリテージが変容したりフワフワと浮いていた泡が消えていくことになったと思います。とてつもない痛みを伴いますが、新たな仕組みがどんどんでき、推進されやすくなるともいえます。

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