山田 晶子
18FWファッショントレンドと社会潮流
【社会潮流】は、ファッションに示唆を与えてくれる・・・
ファッションの経糸は、【理念・思想・精神・美意識・・・】、緯糸が【社会潮流】という観点で進んできている当連載、しばらくお休みさせていただいておりましたが、そうこうしているうちに、18FWもシーズン終盤・・・社会潮流との関係性をまとめておきましょう!
■18FWの「時代の気分」
前回、
「18FWは90’sの影響を受けている」と言われている昨今、90’sには、どんなファッションシーンが展開されていたのか…との考察で、
①新世紀を迎える躍動感~「スポーツ」ファクター⇒「ナイキ」ブーム
「スポーツ×テクノロジー」を背景に、いわゆるハイテクスニーカーがブームに。
②「混沌」に対して、襟を正したいきちんと感~「トラッドスタイル」ファクター⇒「Ralph Lauren」 ブーム
マーケット背景からも、渋カジファッション、セレクトショップブームが後押し。「大人の紺ブレ」浮上。
③型にはまらない新しさを「模索」~「ミュージックシーン」ファクター⇒「グランジロック」ブーム~ 「グランジファッション」
背景として、精神性を重視する、オルタナティブ(型にはまらない、もう一方の選択)志向→ミュージック/オルタナティブロックのひとつである「グランジ(薄汚い)ロック」からの「グランジファッション」
≪90’sのファッションシーンは①②、「オルタナティブ」を「型にはまらないスーパーリミックス」と捉えれば③も、まさに今現在、18FWファッションと呼応しています。何故なら、我々も現在、当時とは異なった質での≪模索と混沌≫の真っ只中に位置しているから…! 一方、そこには<サスティナビリティ>と<ダイバーシティ>と<テクノロジー>がクロスしているので、そう簡単に「90年代調がトレンドですね」などとは、言っていられないのも現実≫
とご紹介させていただいておりました。、
その背景・根拠となっているのは、筆者の仕事プロセスからで、シーズンごとに「時代の気分」をアウトプットしています。
毎シーズンものづくりが開始される約1年前に、直近の社会潮流から「生活者の気持ち」を表出させ、そのシーズンの「時代の気分」から、ファッションの役割をフォーカス、数々のキーワードから、当該シーズンの【時代の気分ムード&ファクター】を構築しており、そのプロセスを踏んで、昨年発信させていただいていた【2018FW時代の気分/ムード&ファクター】がこちらです。

20世紀の膿みとも言えるあらゆる出来事が天災・人災、政治経済の様々のシーンから溢れ出し、2020年という一つの節目も視野に入れつつ、「正解(あるべき方向、来たるべきもの)が見えない時代」故に、自分の日常=【今】にフォーカスして、
≪自分自身の最適な暮らし方に目覚めたい!気持ち≫
がベースとなっているシーズン。
それを未来への強さの原動力へと醸成・・・その時の【今】に柔軟に対応するため、学び、気づき、感じることで目覚めていく
↓
今までの価値観(既成概念)を解き放ち「リアルな体験、夢の様な出来事から闇と光を紡いで、新たな価値を創造する」
↓
これが「ファッションの役割」、これを「ファッションで表現」。まさに時代の気分は【覚醒】・・・意識を覚ますことでしょう!
以上は、「時代の気分」へのダイジェストとなりますが、上記のマトリックスの様に、未来への原動力となる「強さ」と「やさしさ」で、「光」と「闇」を紡いできた2018年FWシーズン。
図の各象限は、
Ⅰ.「エレガントな質実剛健さ」を表現
Ⅱ.和み感のあるFeminine&Fantasyな世界観を表現
Ⅲ.「継承された要素」の再構築により躍動感を表現
Ⅳ.「幻想的な世界観」を強さと美しさで表現
といった「装い」です。
各象限を具体的に紐解いていきますが、90’s以外にも、21世紀を迎え、1ディケードが過ぎようとしている2010FWシーズンに、今シーズンと非常に近い「時代の気分」が見受けられます。
■18FW 「覚醒」するファッショントレンド
Ⅰ.「エレガントな質実剛健さ」を表現
この象限は、< Darkness>< Genderful/Humanity > <Smoky><Soft> < Daily ><Facts><Elegant>等をキーワードに、「上質感」と「心地良さ」を追求し、「クリーン」「クレリカル」「アーキテクチャル」を意識しながら、DayTime と Night Time における現代女性の装いのムード&ファクターです。
18FWシーズン立上がりではトレンチ調デザインスカートが散見されていましたね。 2010FW Dories Van Notenのコレクションでは、トレンチ調デザインスカートを初めとした、「Darkness×Soft」なムードを持った「エレガントで質実剛健」な装いを展開していました。 また、同シーズンでは、Saint Laurentでは、クレリカル(聖職者的な)ルックが登場。Metropolitan Museumで、今年5~10月まで「Heavenly Bodies: Fashion and the Catholic Imagination」が開催されていましたが、神と近距離に位置する人々の荘厳なテイストは、時代がファッションに求める凛々しいエレガントさ! 高い襟元やクラシカルな文様が台頭しているシーズンです。


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Ⅱ.和み感のあるFeminine&Fantasyな世界観を表現
この象限は、ソフトなフェミニンテイストをベースに、Warmingな素材感、ケミカルなハイブリッド感 等、様々な掛合せで、温かなFantasy感を表現しています。
2010FWでは、MiuMiuやChirisitian Diorが、warmな素材感に、ケミカルなハイブリッド感をアクセントとしてあしらい、「Brightness×Soft」な大人のファンタジー感で、温かな高揚感を醸し出しました。「フワフワモコモコ」は、マーケットでも健在ですね。


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Ⅲ.「継承された要素」の再構築により躍動感を表現
こちらの象限は、 継承された要素=「トラッド」 「スポーツ」「エスニック」等を中心に、カラー・素材・柄・フォルム・分量感で、《躍動》の体感を表現。マーケットでも、カラーチェックを筆頭に、様々なチェックヴァリエーションが台頭。スポーツ系の素材やディテール、エスニックディテールも登場、マインドアップする装いとして、18FWを牽引しました。
2010FWランウウェイでも、「大人のチェック」は多数登場していましたが、特にVivien Westwoodは、ストライプも取込みながら、デザインやコーディネートで再構成。「Brightness×Strong」なムード&ファクターで、大いなる躍動感を展開しています。



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Ⅳ.「幻想的な世界観」を強さと美しさで表現
第4の象限は、「不思議な既視感」を、カラー・素材・柄・フォルムにより、闇の強さから光へ向けて、マインドアップさせていく装いです。
2010FWでは、LanvinやPRADAが「Darkness×Strong」なムード&ファクターを展開。「眩惑的な美しさ」で魅了しています。18FWマーケットでは、まだ展開しきれていない部分もあり、19FWへエッセンスのひとつとして転移させていけますね。


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■社会潮流とファッショントレンドの関係性
90’sの社会潮流とファッショントレンドの関係性は、かなりメジャーに流通していましたが、まさにこの時期、2010年も、21世紀のひとつめのディケードを超えようとしつつ「模索と混沌」が、見え隠れしていました。
この年は、チリの大地震、アイスランドの火山噴火、モスクワの地下鉄爆破テロ等、世界的に天災、人災の頻度は高く、近隣では、尖閣諸島沖の中国漁船衝突事故が勃発。バンクーバー冬季オリンピックやワールドカップアフリカ大会の開催で、スポーツマインドによる躍動感を抱きつつ・・・今また、2018FWの「時代の気分」は近似値となり、ファッションは必然として、人々のマインドアップをミッションとして携え、「覚醒」しました。
社会潮流とファッションの関係性を深掘りしていくことで、ブランドアイデンティティを時代の気分で表現でき、結果、オリジナリティへと結び付きます。
サラッと「18FWファッショントレンドと社会潮流」について共有させていただきましたが、プロセスやキーワードはさらに濃密な内容となっております。
既に19SS~19FWの「時代の気分」は、構築済みですが、ご興味を持っていただけた方は、ぜひご一緒に社会潮流の深掘りを!
未来ファッションへの新たなリソースは、まだまだ眠っています。
では、また次回‼