生地 雅之

2021 12 Jul

出版業界における丸紅の新会社

先日、表記の記事が出ました。出版業界は百貨店のファッション売上と似ているところがあり、建値消化率は50%未満なのです。書店は消化ビジネスであり、店頭に並んだ商品の半分も売れてはいないのです。百貨店の衣料品はまだマークダウンという値下げ販売が可能であり、メーカーに戻されるのは27%程度になっているのです。百貨店アパレルはこの返品が15%以下になると大きな利益も生まれてくるのですが、コロナがなくても本来は苦しいのです。

出版業界は値下げセールをやらない(書店は百貨店同様返品できる)から、出版業界に大きな赤字をもたらしており、斜陽産業と呼ばれて久しいのです。紙離れというだけではなく、紙ビジネスのみでも良化には向かっていないのです。つまり、機会ロスをさせない業界でもあり、供給過剰による残品が足を引っ張っているのです。大手取次2社のDBが大手出版3社の利益を阻害しているのです。

そこで大手出版社は取次任せではこの業界は壊れていくと判断したのでしょう。そこで恐らく丸紅のアイデアに乗って、新会社にて改革をしていこうとしているのではと推測されます。要は取次の配本(DB)の精度が如何に低い事と、機会ロスを怖がる売上至上主義から脱却できないのです。業界も企業も利益に目が向いていないのです。企業は営利団体なのですから、儲けなくては維持・継続出来ないのです。

丸紅の新会社でこの古い習慣の打破を狙っているように映ります。基本的な考え方は正しいのですが、過日リークされ一部の出版会社(おそらく主導権を取っているK社)が火消し(取次会社外しに見える=それを新会社でとってかわる目的か?)に走っているのです。「火の無い処に煙は立たない」のですから、準備ができた段階でこのまま公表される事になると推測されます。現在リークされた内容そのままでは成功は覚束ないのですが、真実はまだ闇の中。

まず、出版業界の強みは、編集のコンテンツ開発と書店の店員のこれはどのくらい売れるやどこに何を置くといったアナログ部分のウエイトが高いと思われるのです。ファッション業界のようにアナログ部分に一日の長があるカテゴリーと同様なのです。ユニクロやワークマンはデジタル化出来るところは早めにシフトして行こうとしています。丸紅の新会社の今回のリーク内容はAIやRFIDの導入での改善との事ですが、実際は全く違うものなのでしょう。

AIの導入目的はファッション業界のような間違った取入れ方でなければ可能性もあり、RFIDも同様に在庫管理に使用する程度なら、現在ほとんどの書店に導入されていますPOSの活用で十分事足りるのです。書店も取次もこのPOSを全く活用できていません。よって、供給過剰が発生し、ロスが生じているのです。ここに意思を持って改善(機会ロスを怖がらない=消化率の向上)に向かわなければ業界の埋没は間違いないのです。

恐らく丸紅の新会社はユニクロの可能な限りデジタル化(無人レジ+販売・在庫データ連携による販売数量予測の把握=必要以上の無駄な生産の排除)に向かい、商品の企画と店頭の品出し、什器レイアウト、マネキン等での訴求などはまだまだ労働集約からは脱却できない事を認識しているのです。デジタル(無人)化出来る処と人材能力をフル活用せざるを得ない部分にメリハリがあるのです。

ワークマンはフランチャイズ方式をファッション業界に持ち込み(過去はJUNやワールドのリザチェーン等が先駆者でしたが、各社はその後自前店舗での美味しさにシフト)、300万円程度の自己資金で、企業側が建物を1から立て商品の発注も企業側(実際は納入メーカーと表現)としていますが、これも納入メーカーが自社の利益に目が行けば、過剰供給は止まるので、店は売るだけでは済まなくなるのは「自明の理」なのです。コンビニのオーナーのように。

過去横浜そごうでのジーンズメーカーによるショップのEOS(自動発注システム)が何故行き詰ったのか?ファッションは定数定量がすべてではなく、食品やコンビニのように1週間の売上が割と固定されているカテゴリーではなく、ファッションは導入期、最盛期、衰退期によっては売上枚数にも大きな変化があり、商品によってはロングタームで売れるものや一瞬で消える商品もあり、中々予測が立たないのです。(弊社はそれに数値化管理ができるのですが)

この様に殆どの書店にはPOSデータが既に導入されており、そのデータの活用で売上、在庫管理も徹底でき、読み取り方ではこれからの売上数量予測も可能なので、同じ程度の事で新たな投資をするとも思えませんので、どのような戦略を持って参入されるのか次第では成功するかは見えてくるのです。但し、大手出版社がこの業界はこのままではNGであることを認識して、大手から改善しようとしている点は業界の限界点が近づいている事が推し量れます。

要は小売業(百貨店もGMSも)も、データは沢山確保できているのですが、そのデータの活用(分析、解析)がまともではなく、過去の売上・在庫データを見ての今後の売上予測に役に立てては全くないのです。データが勿体ないのです。もう一つは企業が「何をしたいのか?」「それに必要なデータは何か?」「手持ちのデータでそれに必要なデータはどれどどれであり、不足は何か?」「それを再度収集し」、「したい事に向けて分析すべき」なのです。

現在は自社・自店がこれからどうあるべきか、それに向かって現状からどう進むべきかを構築する必要に迫られてきています。経済環境は間違いなく変化の兆しが見えています。どう変わるのかは別として、その中での自社・自店は何をすべきかが問われているのです。

是非とも、健全なる企業経営に向けて、早急に改善・改革される事を祈念致します。
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