小島 健輔

2018 25 Jan

百貨店婦人服が溶解する!?

 23日に百貨店協会が発表した東京地区百貨店の12月売上を見て絶句された方も少なくなかったのではないか。総額は0.9%、紳士服も9.4%伸びたのに、主力の婦人服が4.6%も減少していたからだ。紳士服の9.4%増は異常値臭いが、婦人服の4.6%減はさもありなんという背景が指摘される。
 17年の年間でも総額が0.5%、紳士服が1.1%伸びたのに、婦人服は4.0%減と紳士服との格差は5.1ポイントも開いたが、12月の格差は14ポイントと、恐らく百貨店協会の統計が始まって以来の驚愕の格差となった。東京地区百貨店では99年8月は逆に婦人服が15.5ポイントもリードしたが、紳士服にここまで逆転されたことはない。全国百貨店でも両者の年間格差は3.2ポイント、12月も4.1ポイントだったから、東京地区百貨店の12月の格差はかつてない“異常値”である事は間違いない。
 百貨店協会の概況説明も紳士服は防寒衣料が動いて好調としているものの、婦人服も“堅調”として格差の原因には触れていない。しかし、百貨店売上の長年にわたる推移を検証すれば、ついに来るべきものが来たという認識に帰結する。通年で婦人服の前年比が紳士服を下回るようになったのは11年以降7年連続(全国百貨店)で、じりじりと地殻変動が進行していたからだ。
 12月の劇的格差に至った要因は二つあると思われる。
 第一は紳士服に比べての過剰な売場と過剰な供給だ。百貨店婦人服の売上ピークは98年、百貨店売上に占めるシェアのピークは02年の25.5%だったが、紳士服売上との倍率は06年の3.33倍がピークだった。家計支出調査では紳士衣料の1.8倍弱の婦人衣料が百貨店では紳士服の三倍近い売場を占めて三倍強を売り上げ、過剰供給になっていた。
 80年頃には1.7倍程度の差だったのが90年代末には3倍にまで開き、衣料消費が萎縮する中も06年に3.33倍にも肥大した(紳士服の落ち込みも影響した)のは消費の実勢を超えた水膨れだったのではないか。17年通期の全国百貨店における婦人服売上シェアはピークから5.8ポイント落ちて19.7%と、6.7%を占める紳士服の2.93倍までシュリンクしたが、売場面積の圧縮はこれから本格化する。
 第二は女性の労働戦力化による装いのコモディティ化だ。今週月曜の『コモディティ服に勝負あった!』で指摘したように、女性の就業率上昇とともに装いが機能化・男性化して“お洒落”から“生活用品”に変質し、“お洒落”だった分の付加価値が剥げ落ちて婦人服支出を萎縮させている。実際、女性就業率の上昇と衣料品の購入単価下落、スカート比率の低下とパンツ比率の上昇は明確に相関しており、ストッキング(パンティストッキングも含む)など絶滅危惧アイテムと化してしまった。女性はもはや“女”である前に男性同様、社会戦力としての“労働者”となった感がある。
 女性の関心は仕事とアンチエイジングに移り、百貨店も婦人服売場を縮小して化粧品と美容サービスを拡充せざるを得ない。そんな現実を突き付けた12月の“異変”だったのではないか。

     
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