小島 健輔
トレンド潮流は三層で流れる
来秋冬のMDストーリーを提示する当社の『MDディレクション』の製作も大詰めを迎えているが、ここまで組み立てるには数値と感性のデータをワトソン並み?に駆使してトレンド潮流の表層流と中層流、そしてすべてを押し流していく底層流の動きを4D感覚でモデリングするところから始まっている。
1)トレンドの表層流
デザインやディティールなど表面的なビジュアルで、中層流や底層流のどこに乗るかで全く姿を変えてしまう。消費される速度は需給状況に左右され、4週もたずに終わってしまうものがあるかと思えば、出たり消えたりしながら数年も続くものもある。ある種のチェックや豹柄のように毎年、同じ時期に決まって繰り返されるインフルエンザ的ディティールもある。
供給が少なすぎるとトレンドにならないまま短期で消え去り(その場合は復活も早い)、供給が氾濫すれば値崩れするが、ある程度は露出しないことにはトレンドにならない。需給の流れにどこで乗ってどこで引くかタイミングが肝心だから、初期ロットは抑えて短サイクルで追加すべきだ。
2)トレンドの中層流
アイテムないしはその着まわし方で、賞味期限は3〜6年と長い。あるシーズンにヒットアイテムになってからディティールやフィットを微修正しながら継続展開するもので、売上の中核となる「定番」と位置付けられる。表層流のディティールを控えめに取り入れながら底層流のフィットやウエアリングとずれないように微修正していくのが肝だが、最初のブレイクに比べれば翌年以降は年々減衰していくから、新たに「定番」となりそうなニューアイテムを仕掛けていく必要がある。
実績商品で販売数量も相応に読めるから、ライバルも参入して供給が増え価格が下がることを配慮して、量産工場の閑散期に仕込んで調達コストを抑えるのが賢明だ。
3)トレンドの底層流
フィットやウエアリングの汎用性トレンドで、6〜9年サイクルで浸透し減衰していく。「ノームコア」から「抜け」、「スポーツミックス」から「アスレカジュアル」と広がっていったフィットとウエアリングの潮流など典型的な底層流で、アパレルマーケットの構造を根本から変えてパワーブランドの世代交代をもたらす。実際、この潮流以前の商品と今日の商品ではサイズ感が一変しており、かつてのMサイズが今日ではSサイズになってしまい、古着店ではLやXLばかり売れている。
商品開発では素材とパターンをデリケートに吟味する必要があり、素材開発を先行して基本デザインを決めパターンとグレーディングを詰め、ディティールは最後に決める。素材開発からの期間は長くなるが、生産のリードタイムは「定番もの」と「デザインもの」「定番もののSKU補正生産」で二極化するから、素材供給の工賃払い調達が望ましい。
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「トレンド」と一括りに言っても大きくは三層で流れており、その下には社会構造とライフスタイルのマグマが蠢いている。私の日頃の論展や『MDディレクション』はそんな構図に基づいているわけだ。