小島 健輔
三人以上で接客してはいけない!
日経MJのコラムで某紳士服チェーンが『一人の顧客に三人以上で接客する販売手法が成果を上げている』と取り上げられていたが、参考になるより危惧を抱いた方の方が多かったのではないか。某紳士服チェーンの販売手法は誤解を招くようなものではないが、多人数で接客する販売方法は、かつて問題となった呉服業界の「過量販売」や「監禁商法」を想起させるからだ。
ファッション業界では複数の販売員で接客する手法は以前から存在するが、通常は接客役とフィッティング役の二人対応で、三人以上だと性格が変って来る。高級ブティックなどでは、フィッティング役がテクニカルなサポートをする一方で販売役がコーディネイトを提案したりお勧めトークを投げ掛けるチームプレイを見かける。オートクチュールのサロン販売では試着モデルと販売員という組み合わせになる。TVショッピングのモデルさんと売り子(ナビゲーター)の掛け合いみたいなもので、これに加わって購入を煽るのはゲストタレントの役割だ。店舗販売では手の空いたスタッフがいればゲストタレント的なお勧めトークを投げる事もあるが、顧客のお連れ様を巻き込んで似たような役割を果たしてもらうよう「接客マニュアル」で教えているケースもある。
格別に華やいだ客層を相手にする高級セレクト店などでは、三人以上で盛り上げる「シャンパンタワー」という接客方法を稀に見かける。ホストクラブの接客に通じるもので、呉服店の「過量販売」や「監禁商法」はこれの行き過ぎたものだろう。
チームプレイにせよシャンパンタワーにせよ、三人以上で盛り上げれば顧客は舞い上がってしまい、冷静な判断力を失って高額あるいは多量の購入に至り易い。その時はよいにしても、冷静になれば後悔して返品したり、怖がって店に近寄らなくなるやも知れない。呉服業界では現実となって業界総体の衰退を加速してしまったのだから杞憂とは言えないだろう。
顧客との信頼関係を築くには、むしろ『三人以上で接客してはいけない』とマニュアルに明記すべきだと思う。
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