小島 健輔
忘れられた『売り切るVMD』
長年の習慣で毎月、主要商業施設の有力店を一周してMDの流れを点検しているが、いつもながら疑問に思うことがある。それは新商品が打ち出される一方で旧サイクル商品がぞんざいに扱われていることだ。
新商品をキレイに見せるのがVMDか?
一見は整然と陳列された店舗もキレイにまとめられているのは店頭や主通路に面した新商品の打ち出しだけで、前サイクルで打ち出されていた商品の売れ残りは後ろのラックや壁面に無造作に突っ込まれていることが多い。新商品は何より鮮度があるし、色やサイズも揃っているから企画意図をキレイに表現しやすいが、旧サイクル商品は売る側も買う側も見飽き、色やサイズが欠けて歯抜けになっているから余程、上手に再構成して陳列しないと買い気を引くのが難しい。そんな旧サイクル商品を分類編集も見せ方も疎かに詰め込んでしまえば、売れるものも売れなくなってしまう。
ギョーカイで「VMD」と称されているもののほとんどは新商品を打ち出す群像ディスプレイみたいなもので、品揃えの総体を売れるように編集表現する実務スキルとはほど遠い。ましてや、売れない商品も売れるようにする“マジック”など望むべくもない。それでは新鮮商品や売れ筋商品ばかりがフォーカスされ、旧サイクル商品や動きの鈍い商品は隅っこに溜まっていくばかりだ。
こんな「VMD」は上っ面を化粧する“お遊戯”であって、消化率を高め粗利を稼ぐ“実務”とは到底言えない。実務では“労働”の結果としての“成果”が問われる。ならばギョーカイでもて囃される「VMD」の大半は自己満足の“お遊戯”に過ぎないのではないか。
“お遊戯”でない本当の「VMD」とは
それに輪をかけるのがPOS依存の補給や追加投入だ。『売れた』という結果だけを見て補給や追加を行っては品揃えが過去の売れ筋に集中してしまい、なんらかの理由で『売れなかった』商品が売れるようになって品揃えが広がる芽を摘み取りかねない。
投入から一定期間、『売れなかった』商品を先々まで『売れない』と決めつけてしまうのは姑息に過ぎる。季節感やトレンドを先取り過ぎて初動が鈍いことは屡々あるし、天候次第で売れるものも売れなくなる。ましてや売場の目立たない隅っこやゴッタ煮のラックに詰め込まれてしまえば、店頭に打ち出されている商品と比べ『売れる』チャンスは何十分の一かになってしまう。顧客の目に触れやすい一角に陳列されたにしても、コーディネイト相手とのマッチングが悪かったり色合わせやフィットを外せばスルーされてしまう。
『売れた』『売れない』をPOSの結果だけで見るなら店舗スタッフの役割は限られてしまう。まさか話術やお愛想で売りつけるのが「販売」だと思っているのではあるまいが、そんな錯覚をしていると呉服業界の「押し込み販売」や「ホスト販売」の二の舞になってしまう。ロープレコンテスト流行りに危惧を抱く所以だ。
衣料品の「販売」は商品そのものの魅力を別とすれば、編集陳列が6〜7割、コーディネイトとフィッティングの接客が2〜3割、接客トークは1割以下だと思う。『売れる商品』をもっと売り『売れない商品』も売れるようにしてしまう編集陳列こそ“お遊戯”でない本当の「VMD」ではないのか。
新商品や重点商品の打ち出しは本部がビジュアル指示できても、各店で異なる在庫状況に即した編集陳列は店舗スタッフのセンスとスキルが無いと難しい。それとて基本の組織的継承と店頭で四季を回した体験の積み上げが不可欠で、定着率が低いと技術が霧散してしまう。
VMDが“お遊戯”になった訳
VMDが“お遊戯”になってしまったのは百貨店のコンセショップマネジメントが災いしたと思われる。
百貨店衣料品のコンセショップは売上仕入れだから、売場が狭く陳列量が限られる中、百貨店側は売上に直結する鮮度のある動きの良い商品を要求するばかりで、自分にリスクのない在庫の消化にはまったく関心が無い。ブランド側としては動きの鈍い商品や売れ残り品は隅っこに押し込むか、売場から引いて後方や倉庫にストックするか、第二戦級店舗に回すしかない。ゆえに百貨店コンセショップにおけるVMDは新鮮商品や重点商品の打ち出しに偏り、不振商品や売れ残り品を売り切る編集運用が顧みられることは稀だ。それが百貨店外のブランドショップやSPAにまで波及してギョーカイの「VMD」が形成されたのではなかろうか。
そんなお化粧かお遊戯みたいな「VMD」は在庫を消化し粗利益を稼ぐという実効性は疑わしく、売れない商品も売り切って在庫を消化しないと利益が残らないSPAやアパレルチェーンでは役に立たない。「本当のVMD」のスキルが忘れられ、教える機会も少なくなったが、5月16日に開催する『VMD&店舗運営技術革新ゼミ』では最新の技術体系を余すところなくお伝えしたい。
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