小島 健輔
ECに飲み込まれる店舗販売の実情
ZARAなど欧米チェーンでは「店受け取り」はもちろん「店在庫引き当て」や「店出荷」にまで踏み切るC&C(クリック&コレクト)が広がっているが、国内のアパレル店舗でもタブレット接客やスタッフ投稿などECと店舗を一体運用するのが日常的な風景となりつつある。
■どんどん増えるEC関連業務
物理的に制約される店舗の品揃えを超えて販売するにも店舗で欠品している在庫を探すにもタブレット接客は必須で、自社のECやライバルのECに何が上がっていて何が売れ筋になっているかなど熟知しておく必要がある。店舗とECをショールーミングとウェブルーミングで行き来するのは顧客も販売スタッフも同じだから、顧客以上のスキルと最新の情報がないと接客に支障をきたす。
自社アプリやクーポンの取得(ダウンロード)、決済アプリで手間取る顧客をサポートするにはスマホ各社のOSやアプリの手順も最低限は知っておく必要があるから、スマホ販売員に近い知識とスキルが問われかねない。
売場での接客はもちろん、販売スタッフには自社ECのスタッフプレビューやスタイリング投稿、SNS投稿も求められるが、着こなしやポージング、撮影や後加工、文書作成と“ささげ”のスキルまで問われてしまう。リセールアプリやインスタグラムで慣れている販売員ばかりではないしブランドイメージと乖離しても逆効果だから、最低限のスキル研修は不可欠だろう。
■勤労が評価されない現実
「販売スタッフのメディア化」などと持ち上げられてもアフィリエイト報酬を支給する企業は限られるし、休息時間やプライベートまで潰して勤しむとなると“デジタルなサービス残業”が重荷になりかねない。デジタルスキルを体系的かつタイムリーに研修しているケースはあまり聞かないから、スタッフが自主的に習得しているのだろう。ロープレコンテストに費やす暇があったらデジタル研修に注力すべきではないか。
従来の店舗業務にEC注文品のお渡しやお試し、店出荷の作業、タブレット接客やそのためのウェブルーミング、SNS投稿とそのための“ささげ”など、EC関連の業務とスキル習得が新たに加わる一方、それが報酬に評価されないという実情は、店舗がECに売上を奪われる一方でECをサポートする業務が増えていくという矛盾と重なって見える。
自前ECをプラットフォームとしたC&Cと店舗販売のデジタル化、ショールーム化は避けては通れない現実だが、それに伴って変わっていく店舗業務が適正に評価されないと組織のガバナンスは崩れてしまう。店舗とECの一体運用は勤労を正しく評価する公平な統治が不可欠だと肝に命じてほしい。