小島 健輔
スポーツブランドに迫るデフレの危機
アパレルが過剰供給と需給ギャップで過半が売れ残るという惨状の一方、スポーツブランドはアスレジャーやアウトドアのブームに乗って大躍進していると多くの皆さんが「錯覚」しておられるが、実態は分野やブランドで明暗が際立ち市場規模は微増にとどまっている。
■好調企業はゴールドウインだけ
スポーツ関連上場企業の19年3月期決算が出揃ったが、勢いがあるのは「ザ・ノース・フェイス」を擁するゴールドウインだけで、業界首位のミズノは減収・減益、戦略の迷走を指摘されて伊藤忠にTOBをかけられたデサントは微増収・二桁減益、ヨネックスは微減収・二桁減益、アシックスの第1四半期も減収・二桁減益と、「大躍進」というイメージからはかけ離れている。
一人勝ちのゴールドウインにしても二桁成長に加速したのは18年3月期からで、それも「ザ・ノース・フェイス」を主軸とするアウトドア関連が押し上げており、それ以外は減収が続いている。実際、アウトドア関連の売上と全社売上に占めるシェアは16年3月期の341.5億円/57.2%から19年3月期は647.0億円/76.2%に跳ね上がっている。
「ザ・ノース・フェイス」ブランドの売上はいかなる形でも公表されていないが、アウトドア部門売上の九割近くを占める550〜560億円程度だと思う。推察の域を出ないにしても、ゴールドウインの躍進は「ザ・ノース・フェイス」が担っていると言って間違いない。その「ザ・ノース・フェイス」人気にしても、アウトドアというよりタウンユースやビジネスユースが支えている嫌いは否めず、いずれブームが冷めるリスクも指摘される。
当社で集計している商業施設のブランド別既存店売上前年比を見ても、好調を継続しているのは「ザ・ノース・フェイス」と「ラコステ」「コロンビア」までで「エーグル」は浮き沈みがあり、「ナイキ」と「プーマ」は水面の攻防、「アディダス」は水面下の月が多い。アウトドア系は概ね好調だが、スポーツ系は「ラコステ」を除けば好調とは言い難い。著名ブランドでも好不調が別れるのだから、スポーツ関連企業の決算に反映されているように、実用性のスポーツブランドは競技種目の人気に左右されてしまう。ピークの四分の一に縮小したと言われるスキー関連などはその典型だろう。
■スポーツブランドに迫るデフレ
スポーツブランドには価格の壁も指摘される。スポーツブランドの「正価」はお手軽なSPA商品に比べると倍以上に高価で、ファッションアパレルほどトレンド変化がなく機能性が優先されるから、アウトレットでの購入比率が高い。統計的な資料は見当たらないが、どこのアウトレットモールでもスポーツブランドは一通り揃っているから、オフプライスでの購入が一般化していると見て良いだろう。
そんなことを指摘するのは、過去四半世紀にアパレル分野で起こったようなデフレによる市場の縮小を予感するからだ。
アパレルのデフレを主導したユニクロが「スポクロ」に挑戦したのは20年も前の97年の事で、わずか一年で撤退しているし、近年のアスレジャーにも積極的ではないが、「西宮戦争」に象徴されるようにワークマンプラスとデカトロンが覇権を争ってスポーツアパレル(デカトロンは用品も強い)のデフレが広がれば市場規模は急速に萎縮していく。
ユニクロとてワークマンプラスの驚異的な成功を横目で見過ごしはしないから、遠からず「スポクロ」に再挑戦するに違いない。となれば三つ巴の争いがスポーツアパレルの価格破壊を加速するのは避けられず、高価格が通らなくなったスポーツブランドの売上は一部の人気ブランドを除き急速に萎縮していくだろう。
東京オリンピックが迫ってブームの最中にある今日でも好調ブランドは一部に限られ、卸が大半を占めてアウトレットと直営店が加わるという古典的な流通にとどまるから、スポーツ関連企業の業績はオリンピック終了後、急速に悪化する公算が高い。「スポーツブランド人気」は錯覚でしかなく、デフレの波に飲み込まれて遠からず幻に終わるだろう。