小島 健輔
AI接客の未来を牛丼屋の券売機に見る
ネットで検索したりECで買物していると、密かに書き込まれたCookie(来歴記録メモ)に導かれて広告やレコメンドが表示されるが、仕組みは解っていても気持ちの良いものではない。こちらが意図して誘導したのならともかく(EC買物の極意だよ!)、思わぬ表示が出て来ると何時のアクセスで書き込まれたCookieが誘導しているのかと訝ってしまう。ランジェリーブランドの販売動向を調べた後など、恥ずかしくなるような広告が表示される事もある。そんな時はブラウザの環境設定でCookieを削除してしまえば済むが、膨大なCookieリストを逐一検証して要不要を判断する訳にもいかず、全削除してしまうと便利に利用していたサービスまで途切れてしまう。
Cookieによる広告やレコメンドはネット広告エージェントのAIが勝手に判断して自動的に送り込んで来るもので、精度がまだまだ至らないという事もともかく、人の行動を勝手に類推して一方的に提示して来るという態度が気に食わない。ましてや「Alexa」など身近に置いた音声応答AIがプライベートな情報を瞬時にクラウドとやり取りするかと思うと、ついつい躊躇してしまう。グーグルの某研究機関が音声対応AI同士の対話実験で収拾のつかない事態になりかけたという“都市伝説”も流布されているが、そんな事は遠く1968年公開のSF映画「2001年宇宙の旅」のHAL9000の反乱で予見されていた。
店頭で接客されれば誰でも解ると思うが、如何に優秀な販売員が顧客を洞察して提案しても、顧客の意志と擦れ違えばムカつくだけだ。顧客は自分の意志を理解して欲しいのであり、類推を押し付けられたくはない。今の接客AIの開発姿勢は根源から間違っているのではないか。
AI接客では顧客の意志を速やかに理解するエントリーシステムが要で、顧客がどんな要望を持っていて、どのような切り口で商品を探したいのか、どのようなアドバイスを受けたいのか、顧客が意志を示せるプロセスが不可欠だ。今のAIは蓄積した周辺情報から類推するばかりで、顧客本人の意志を問うていない。これでは一方通行で、擦れ違いが避けられないではないか。
顧客の意志を問うプロセスはコールセンターのエントリーシステムが解り易いが、幾つもの選択肢とステップを要して時間ばかり食う。タッチパネル方式のエントリーなら多くの選択肢を一覧で表示してステップを短縮出来るし、IDで顧客を特定すれば適確なレコメンドが可能だ。それはECでも同様で、下手なAIがレコメンドするより顧客に聞いた方が速やかに接客が進む。Amazon「Echo Show」のような音声認識AIとタッチパネル・ディスプレイの組み合わせが最も現実的なのではないか。
今のビッグデータ型開発スタンスでは時間と費用ばかり食って使える自動接客システムにはほど遠い。牛丼屋のタッチパネル式オンライン券売機の方がよほど明日の接客ロボットに通ずると喝破すれば一気に開発が進むのではないか。
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