小島 健輔
「バベルの塔」と「アナログの壁」
販売や物流から物作りやサプライチェーンまでデジタル化が叫ばれているが、先行するオムニコマースな顧客コミュニケーションはともかく、データ・プロセシングやIoTなサプライチェーンとなると現実は厳しいようだ。
デジタル最先端の現場では各時代各企業の様々なファイル体系でスクラッチされたシステムとASPパッケージの繋ぎ込みに多くのシステムエンジニアの時間が浪費されているし、通信環境に取り残されたローカルやアナログに固執する職場では未だISDN やFAXに依存する状況が見られる。通信環境がG4からG5と急速進化しているのは利用の拡大が見込め基地局設置が容易な移動通信(モバイル)であって、通信速度も安定性も高い有線通信環境は都市部とローカルの格差が大きいし、デジタルリテラシーに遅れた経営者の企業は丸ごと時代に取り残されている。
デジタル化の目的は顧客と企業はもちろん、企画・生産・物流・販売のサプライチェーンを時差なくシームレスに“繋ぐ”のが第一義で、まずは通信環境、ついで各分野/段階のシステム連携が問われる。どちらか一方でも繋がらないとデジタル化は進まないが、経営陣が必ずしもその事情を理解しているとは思えない。
インフラ整備コストの負担はともかく通信環境はいずれ解決されていくし(政治的に通信料金を抑えるとインフラ整備が遅れるリスクは否めない)、システム連携の「バベルの塔」もグローバル規格に統一されていくとともに解消されるだろうが、最後に残るのが「アナログの壁」ではないか。
ZOZOSUITとPBの挫折で露呈した「アナログの壁」はパーソナルなサイズデータをパターン&マーキングCADに落とす経験値とスキルの不足が要因だったと思われるが、どの段階でも経験値の蓄積による精度と速度の改善が要となることは疑いようがない。パターン&マーキングCADや縫製プロセスに限らず、物流のデジタル化でもアナログ段階の検証と経験値のブラッシュアップが不可欠で、これらのステップを軽視すると「アナログの壁」が立ちはだかり、デジタル化が効率化にも高精度化にも繋がらず挫折してしまう。
デジタル化に当たっては経営陣がシステム連携の「バベルの塔」を認識し、実務プロセスの経験値を緻密に反映して「アナログの壁」を回避するよう、十分な理解が求められる。それこそがホントのデジタル・リテラシーではなかろうか。