小島 健輔
百貨店バーゲンの混乱に思う
地方店や郊外店の閉店が相次ぎ都心店でもテナント導入が広がって“断末魔”が叫ばれた百貨店だが、インバウンドの劇的復活に26年ぶりという株高も加わって業績が回復し、労働貴族支配の殿様商売や個店帳合の支店経営という根源的問題の解決はまたも先送りされてしまいそうだ。まさしく“喉元過ぎれば”だが、この棚ぼたが去った時、この懲りないギョーカイはホントに破綻してしまうのではないか。
そんな思いを他所に、5年ぶりにバーゲンを前倒した伊勢丹新宿本店を目指し4日10時半の開店に間に合うよう出かけたが、何せ5年ぶりの戦列復帰とあって8000人が行列し20分繰り上げて開店したとかで凄い混雑だった。
メンズ館ではどのフロアも人混みで溢れ陳列面に近寄れない有様で、ようやく目当てのPTとINCOを手にしても試着待ちが階段室まで並び一時間待ちと言われては撤退するしかなく、ようやくB1Fのモードスニーカーの一角に間隙を見つけてお気に入りの一点を選び、11月の家庭イベントで大枚を叩いた残滓のポイントで購入しようとしたが、これまたレジ待ちの列がパーキングビルまで続き30分は並ぶと聞いた。ホントどうしようかと逡巡したが、ここまで苦闘したのだから一点ぐらいは買わなくてはと諦めて並び、何とか精算して這々の体で退散した。
どの売場も酷い混雑と気が遠くなるほどのレジの行列で、『店舗販売とは顧客が購入労働と物流労働を負担する不合理な販売形態』という認識を新たにしたが、それにしても
1)大量の来店客を目的フロア/カテゴリー別に時間差交通整理・誘導する術
2)大量の顧客に大量の商品を見せながらフェイスを維持するバーゲンVMDの技
3)短時間に大量のレジ精算を処理するシステムとスキル
のいずれも至らぬ百貨店という旧態な小売事業者の実態を痛感させられた。その犠牲となって押し合い圧し合いし労働と時間の提供を強いられる顧客に、ひたすら頭を下げ詫び続けるのが“黒服”の仕事だとしたら、最新武装を持たず竹槍で特攻する“負け犬の美学”でしかない。それが伊勢丹に限らず百貨店という巨大企業の実態なのだろう。
これでは目的商品に辿り着けず、試着や精算の行列に怖じ、途中で疲れ切って、大量の“かご落ち”が生じたに違いない。ましてや、限られた売場に限られた商品を上手くもないバーゲンVMDで並べては、陳列は小一時間でひっくり返されて分類の意味をなさなくなり、それを再編集・補充する間隙も見出せず、顧客も探すのを諦めて撤退を余儀なくされる。まさに智もなく技もない暗黒世界の悲劇を見た思いがした。
大企業一流企業という自負はあってもバーゲンの運営スキルすら覚束ない実務能力を“黒服”がひたすら頭を下げ詫び続けて補う姿は決してカッコイイものではない。購買労働を負担させられる顧客のためにも、四苦八苦して汗塗れになる現場のためにも、ひたすら頭を下げ詫び続ける“黒服”のためにも、“かご落ち”で販売機会を逸する商品や取引先のためにも、大量の負荷が集中しても現場を回していくシステムとスキルを根底から学び直し再構築すべきではないか。
小売業の力量は現場を回していくシステムとスキルに尽きる。それは店舗小売業もネット小売業も大差ない。大所高所の経営も結構だが、現場のカイゼンの絶え間ない積み上げこそが顧客に応え収益を支えるという真理に目を開くべきだろう。
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