小島 健輔
店舗販売の未来が見えて来た
「ショールームストアとAI接客システム総研究」というテーマで開催するSPAC月例会が明日に迫る中、ECが席巻するアパレル業界の実情と国内外の様々な事例を検証したレポートがようやく完成した。その中からピンポイントで要点を挙げておこう。
1)ECと店舗販売の伸び率格差は25P近い
メンバー企業の直近決算期平均EC比率はほぼ11%だが、二割を超える伸び率のECと前年割れの店舗販売との平均格差は24.6Pにも及ぶ。それはEC売上を公表しているEC比率10%以上のアパレルチェーン14社の平均も大差なく、格差は23.2Pにも及ぶ。
2)ECと店舗のカニバリはEC比率15%超で顕在化する
『ECに売上が流出している』と実感する企業の平均EC比率は16%強、実感しない企業の平均EC比率は7%強と倍以上の差があり、EC比率が20%を超える企業は総て『ECに売上が流出している』と実感している。これは米国アパレル業界のデータともピッタリ一致する。
3)店舗とECの在庫を一元化するとカニバリが加速する
6割近い企業が店舗向けとEC向けの在庫を‘データ’も‘物理的’にも一元化しておらず、その場合はEC比率が二桁に乗ってもカニバリの顕在化が遅れる。「在庫一元化」は両刃の剣で、一元化してEC比率を高めるとカニバリが加速して店舗販売を追い詰めるリスクが指摘される。
4)ショールームストアはもはや実践段階
一部の先進企業での実験やEC企業のD2Cに限定されていた「ショールームストア」も青山商事の「デジタル・ラボ」など「EC活用品揃え拡張型」、丸井の「フィットスタジオ」など「EC活用サンプル陳列型」が軌道に乗り、‘販物分離’ゆえの圧倒的効率が実証されて実践段階に移りつつある。
5)AI接客システムも見えて来た
SFチックなロボット接客はともかく、Amazonの「Echo Show」など音声認識AIとタッチパネル・ディスプレイを組み合わせたエントリーシステムは技術的にもコスト的にも実用段階に入り、数年を経ずして店頭販売にも定着すると見られる。
アパレル消費の衰退が止まらずカニバリ覚悟でECにのめり込む業界だが、追い詰められる一方だった店舗販売にもようやく未来が見えて来た。明日のSPACでは青山商事とオーマイグラスの報告パネルに加え、多数の事例とデータを駆使して店舗販売の未来を余す所無く明らかにしたい。
◆小島健輔(KFM)のオフィシャルサイトはこちら