北村 禎宏

2020 09 Jul

変革終わってるやん!

 ファーストリテーリング社のケーススタディを最初に取り扱ったのは2012年のこと。大手生保の主事登用研修だった。同社に関してはいくつかのケースがあるが、慶応ビジネススクール(2000年7月)のものだ。

 原宿店のオープンを起爆剤にして、フリースの一大ブームを経て著しい成長を遂げたその時に書かれた。時間ともに時代背景も競争環境も大きく変化するのは、そのとおりである。しかしながら、変わることのないエッセンスを抽象化して抜き出すことでフレームワークを手に入れることができる。

 普遍的なフレームワークは、時が流れようとも、舞台が変わろうとも役に立つ。特に、本ケースはコッターの変革8段階(「企業変革ノート」ジョン・コッター)を使って上手く説明することができるので教材として秀逸だ。フリースの大成功が新たな問題を引き起こしたことから、会社として何を課題としてとらえて、それらにどのように対処していくのか?という続きの議論も可能であることが、ケースとしての価値をさらに高めている。

 コッターの変革8段階とは、1.危機意識の共有、2.強力な推進チームの結成、3.ビジョンの策定、4.ビジョンの伝達、5.ビジョン実現のサポート、6.計画された短期的成果の実現、7.変革の加速化、8.新しいアプローチの定着化の8ステップで、大きくは、変革の「準備」「実行」「加速化」の三つにくくることができる。

 コッターはそれぞれのプロセスでの落とし穴も指摘しており、教材としての使いやすさがさらに良くなっている。かつてカルロス・ゴーンが日産を大変身させたときのシナリオも、この8段階のまんまであった。私が経験したワールドさんでのイノベーションも、まさにこの通りのストーリーが、マクロレベルとミクロレベルでシンクロしながらぐるぐると回っていた。

 さて、このように優れたケースとそこからのインプリケーションから、大手小売業の新任部長の方々に「今後は変革のマネジメントに果敢にチャレンジしてください」というメッセージで研修プログラムが企画されたのは今年の1月~3月のこと。予兆は見え隠れしていたものの、世の中は未だ平時であった。

 そこからたった数か月の間に様相は有事へと転じ、これから変革にチャレンジではなく、「既に変革は始まったし、ある意味終わってるやん」という時勢になってしまった。現在の企画内容では、もはや時代遅れというわけだ。いかなるアップデートを施して10月の当日を迎えるか、楽しみであるとともにドキドキものだ。