北村 禎宏

2019 29 Aug

情報的経営資源のトリセツ

 ヒト・モノ・カネ・情報・時間の五つの経営資源のなかでも、情報的経営資源は際立った特徴を有する。

 汎用性と特異性の二軸でプロットすると、それらの資源の特徴を顕著に識別することができる。
もっとも汎用性が高いのはカネで、福沢諭吉に特定の色はついていないし、信用さえあれば外部からいくらでも調達可能なリソースである。モノもカネさえ出せば手に入る点で汎用性は極めて高く、ヒトはカネで確保可能な単純労働力とそれが困難な熟練労働の二面性を有している。

 時間は誰にとっても溜められない止められない制御困難なリソースと言うことができる。それゆえに生産性向上が叫ばれ、働き方改革が社会現象にもなる。

 情報はカネを出しても手に入れることが難しい特異性の高い経営資源だとされる。加えて同時多重利用が可能である点で他のリソースとは一線を画しており、利害関係が一致する組織や社会の内部で有効活用された場合のレバレッジとインパクトの大きさははかりしれないものがある。VRIO分析におけるレアリティの源泉も情報的経営資源に負うところが大きく、外からは見えないから真似されにくい状態を創出することが模倣困難性の王道とされてきた。

 プロファイリングはもとは犯罪捜査から発展した統計手法だ。確率論的に可能性の高い人物像を示すアプローチが主体者の匿名性をどこまで守秘できるかが問われる。もともと、提供者の本意にそぐわない情報の利用を制限する個人情報保護の趣旨はネット社会においてはザルにさらされている。リクナビが懲罰的裁きのターゲットにされてしまったが、ではGAFA等のネット上で猛威を振るう多くの事業者の所作に何の問題もないのか?

 すくなくとも私は個人名は特定されないものの自分の購買行動や検索行動の足跡を協調フィルタリングのデータベースとして活用してよい旨を同意した覚えはない。位置情報をオンにするときに、その情報利用の詳細をパーミットしたわけでもない。投資信託の約款のように、発見しにくいどこぞにしれっと包括的に記載がなされているのだろうが、その昔アプリをダウンロードしたときや、アップデートに同意したときの全文など読んだこともなければ読み返すこともないのが普通の消費者の姿だ。ホテルの予約サイトなども、うっかりチェックボックスを外し忘れるとうざったいメルマガが山のように送りつけられてくる。合法的とはいえネガティブオプションは迷惑千万なシステムだ。

 消費をはじめとするありとあらゆる社会活動がネット上でアプリを介して行われるようになった今、匿名顕名を問わず様々な情報がデータベースとしてインフラ側にもアプリ側にもストックされることを止めることはできない。活動する側にもストックする側にも、これまでとは異なる配慮と行動が求められる。そのストックから得られた付加価値を売る側にも買う側にも同じことが言える。ルールというよりもエシックスの問題なのかもしれない。

 カネを出しても入手困難な情報的経営資源が、カネを出せば手に入るようになりつつある新しい社会で、新しい倫理感の構築が喫緊の課題だ。それぞれの立場から是々非々の議論はあろうが、新しい扉をこじ開けて社会に問題提起をする積極果敢なリクルートさんには応援エールを送りたい。

 買った側の企業の担当者も、積極的に活用しようというよりは、いったいどんな情報なのか一回見て見たいという程度の動機にすぎなかったのかもしれない。突破期かつ黎明期ならではの事案は今後ともしばらく惹起し続けるだろう。そして少しずつ新しい秩序が形成されていく夜明け前ということか。