北村 禎宏

2020 03 Mar

不連続の変化

 ものごとには連続的変化と不連続の変化の二通りがあり、後者が変革すなわちイノベーションと定義される場合が多い。

 連続的変化は容易に足を掛けることができる階段を一段一段確実に登っていくようなもので、変化の度合いも比較的小規模で、確実に登っていくこともそう難しいものではない。それに対して不連続の変化は、キャズムを挟んで大きなジャンプを必要とするかなりリスクの高い挑戦となる。

 多くのビジネスパーソンが、AIを始めとするICTが不連続の変化の呼び水となる予兆はあらゆる分野で肌で感じているはずだ。淘汰される労働力や退場を余儀なくされる旧ビジネスモデルに対する悲観的同情よりも、来るべき未来の姿に対する楽観的期待に方が大きく上回っているようにも感じられる。

 そこに襲い掛かってきた今回の新型感染症。アパレルに限らず多くの分野でサプライチェーンの綻びが生じつつある。加えてインバウンドの激減の直撃によりディマンドチェーン側も大きな影響を受けている。入口と出口で同時に不具合が発生した今回の環境要因は不連続の変化を強く後押しする可能性が高い。

 事あるごとに古い商習慣が取りざたされるアパレル業界では、旧来型のビジネスモデルの破壊圧力が一気に高まるものと予想される。連続的変化を装って延命してきた商売のやり方が瞬殺されるリスクが極めて高くなったと言え、ここでもすでに寿命を全うしているビジネスに同情する必要はまったくない。

 中長期的に見れば必ず帳尻は合うのが経済であり社会である。しかしながら私たちは現在位置から見てこの先数週間から数か月のことが気になって仕方がない存在であることもまた事実だ。わが国にとっては様々なイベントや人々の大移動が集中する次年度末と年度初めと重なってしまい、何がどうなるのだろうという思いは全国民に共通だろう。

 中長期的にどうやって帳尻を合わせてどのような日常を取り戻していくのか、さらには不連続の変化の向こうにある新しい日常はどのようになっているのかに明るい期待を描きながら、冷静に鎮静化を待つのが賢明な姿勢だ。