北村 禎宏

2018 29 Oct

30年の間に起こったこと

 バブル崩壊前夜の1990年、衣料品市場規模は15兆円、供給枚数は20億点、平均単価は7500円であった。

 2010年には10兆円、39億点弱、2300円となった。直近では、10兆円弱、38億点弱、2573円という数字がある。ミクロ(ここ3年)では、市場規模微増、供給量微増、平均単価横ばいもしくはやや微減の傾向だが、マクロ(30年)で考えると何が起こったのか?

 90年代以降の失われた20年、ただただ単価を下げる不毛の競争にしか能を発揮することができなかったアパレル業界は、価値が著しくダウンしたペラペラの洋服を消費者のワードローブに倍ほどの枚数を無理矢理押し込んできた。

 しかも、わが国は2010年頃から人口減少社会に突入している。永年着込んで愛着が湧いてくるような所有価値を感じることができなくなった消費者はファション離れという冷徹な答えを業界に突きつけた。自業自得とは言え、業界全体で陥っている集団催眠から覚めるのは今の業界構造では至難の業であると言わざるを得ない。

 作らないと売れない、在庫がないと売上がとれない、プライスで下を潜らないとコンペティターに顧客をとられるetc.行きつく先はカタストロフィーであることは薄々わかっちゃいるが、今月今期の予算におしりをたたかれては現場の人々は安物の洋服を大量生産し続けるよりほかに術はない。

 供給数量が倍ほど多すぎることは明白だが、単価を倍にすることは容易ではない。30年前の家計と大きく変化したのは消費支出に占める通信費の割合の増加だ。家計消費支出は額ベースで減少し続けている一方で通信費の割合は増加の一途をたどっている。

 時間もお金もスマホという化け物に浸食されて大きな割りを食うのがアパレルに限らず多くの消費財業界の運命か?そのスマホを舞台にしてC2Cのビジネスやレンタル、シェアの新ビジネスが展開されていることは皮肉だ。ローテクの代表格とされる洋服ではあるが、素材とりわけ化学繊維の進化は著しい。希少な天然素材を除けばより安くそこそこの商品を作ることはできる。

 単価と枚数の落としどころはどのあたりにあるのか。どや顔満載のショップもしくはブランドの登場が求められている。