北村 禎宏

2020 30 Jul

さまざまなオーダー

 一日24時間を積み上げて一年を暮らし、90年前後の人生を全うする私たちにはワンジェネレーション約30年のオーダーが染み込んでいる。

 数十年に一度とか百年に一度のフレーズを耳にするのが日常になってしまったが、河川の氾濫による地形の変化は数十年から数百年のオーダーで繰り返されてきた。30年のジェネレーションオーダーで暮らす人々は、その隙間を縫うようにして家屋と村々を再建しつつ営みを継続してきた。

 数百年のオーダーでやってくるのは火山の大噴火だ。雲仙普賢岳の大火砕流は記憶に新しいが、富士山の噴火は記録でしか認識することができない。さらに数千年から数万年のオーダーで氷河期と間氷期が繰り返されていて、現在は束の間の温暖期に属していて、私たちの有史はそこで形成された。

 地質学的には数万年のオーダーもほんの一瞬の出来事に過ぎない。宇宙は億年単位のオーダーでこれまでやってきたし、これからもやっていく。今にして思えば、SARSやMERSは数十年のオーダーで襲い掛かってくる中範囲の出来事にすぎなかった。COVID-19は数百年のオーダーで襲来するグランドイシューなのだろう。

 グランドイシューは社会の在り方に大きな変化をもたらし、人類の歴史に多大なる影響を与えてきた。公文書の保存ルールが整い実行されてきたのも、この数十年ほどのことだ。百年ほど前のスペイン風邪、ましてや数百年前のペストの大流行について私たちが知ることができるのは限られた文献や記録を通じての断片に過ぎない。行政や政治上の公のレコードを通じて当時の詳細を知るすべはない。ナレッジは蓄積できておらず、当然継承もされていない。

 一年後の今、日本や世界はどうしているだろうかと、私たちは自分のオーダーでしか考えを巡らせることができないが、数十年、数百年のオーダーでやってくるインシデントがたまたま重なったとしたらどうなるだろうか。地震雷火事親父がいっぺんにやってくる事態だ。

 四年に一度、一年後は我々都合のミクロの時間に過ぎない。首都圏が火山灰に覆われて、水没し、建造物が倒壊している中で祭典もへったくれもなかろう。練習や予選の環境も国々の事情により大きく異なる。12月まで引っ張るのではなく、今決断が求められているのではないだろうか。

 それでも、自分の任期、自分の余命の間、面倒なことや困難はできるだけスルーして穏便に全うしたい、誰かがなんとかしてくれるだろう、事態は何とかなっているはずだという悪魔のささやきが私たちには寄り添ってくる。