北村 禎宏

2019 08 Sep

一か月を切った

 10月からの増税まで一か月を切った。はたしてどのような現実が訪れるのか、注意して見届けるべきことが少なくとも三点ある。

 第一は、アパレル業界にとっては初めてとなる秋冬の駆け込み需要とリバウンドがどのような消費指数になるのか?3%、5%、8%といずれも4月の導入だったことから、春夏シーズンについては少なくとも三回分の過去データがある。

 脱ぎ捨てていく春夏と着足していく秋冬とでは、週指数は鏡のように裏返しにはならない。春のピークは12週13週で、チャネルにより異なるものの夏のピークは18週になるのがSSだ。秋のピークは38週で防寒が本格的に動き始めるのは42週43週というのがAWの山谷である。いずれのピーク週も、4月1日、10月1日を挟んで均等に分布しているわけでもない。

 ここはひとつAI君の出番到来だ。前年、当年、翌年の前後三年分のあらゆるチャネルの販売データを三回分食べさせてぶん回せば確度の高い販売動向予測が得られるはずだ。AI君ならではの情報処理の腕の見せ所は二つある。ひとつは、春夏の消費動向をどのようにして秋冬に翻訳して解釈するかだ。人間の頭で置き換えることができる要素も少なくはないが、AI君のパターン認識のバリエーションとスピードにはかなうはずもない。

 さらに、館のキャンペーンやSCアパレルの販促(レジにて10%など)、ECならではの定期、不定期のプロモーションが大きな影響を及ぼして20年以上が経過した今、それらをどのように加味していくべきか、これはもう人間にはお手上げである。熱心なT社やロジックに長けたW社などはかなり突っ込んだ動きをしているであろうと想像する。

 9月末・10月頭には決算の端境を迎える企業も多いことから、どのように通期もしくは上期下期を仕上げるのか思惑も絡んでくるので余計に複雑な状況となる。10%で打ち止めということはあり得ないので、19AWのデータは将来に向けた貴重な知見の蓄積となる。

 二点目はイートインとテイクアウトの混乱だ。アパレル業界には関係のない話だが、消費者としては毎日のことなので、どうなんだろうねと。これはまあ、慣れの問題でもあるので
時間が解決してくれる瑣末な事象だ。

 三点目の中小事業者を対象にしたキャッシュレス還元は根が深い。ハードウェアの初期投資がさほど重たくはなくなった時代とはいえ、それでも小規模事業主にとっては手痛い出費だ。6月までの時限措置終了後も継続利用すれば未来永劫手数料を支払い続けることになる。およそ2~4%前後であろうから、決して小さい数字ではない。数%の営業利益しか計上できていない
事業者の場合、そのかなりの部分を支払手数料が持っていってしまうことになりかねない。

 他国に比較してのキャッシュレス普及率を気にする向きもあるが、PCも携帯もない時代に高度成長を経験した我が国と、ネット社会になってから経済成長を遂げている国を比較することに
どこまでどんな意味があるのか、幅と奥行きのある議論は聞こえてこない。

 結婚して間もないころ、震災前の長田商店街での週末の楽しみは、晩酌に備えてなじみの魚屋さんで刺身を物色することだった。微笑ましそうに50円引きしてくれる店主からは、若い私たちを応援してくれる暖かい気持ちが伝わってきた。店頭にはレジではなくザルが備えられていた。