北村 禎宏

2019 26 Nov

システム屋の性

 ITを取り扱うシステム屋には性がつきまとう。性には善玉もあれば悪玉もあり、悪玉が頭をもたげたときには少々やっかいなことになる。

 悪玉の代表格はシステム屋ならではの“マスターベーション”に陥ってしまうことだ。システムオリエンテッドに傾斜するがあまり、ユーザー側の利便性が損なわれるどころか無視される場合も少なくない。先日もOCRによる集計のことに体重がかかりすぎて、記入する側のユーザーインターフェースが疎かになってしまっているアンケートに触れる機会があった。

 システムにとっては、たとえどんな複雑なアルゴリズムでもプログラムでも、いったん組まれてしまえば実行することはいとも簡単な仕事になる。一方の人間側はむしろアナログの側面の方が強いことから、目の動きや手の動きをデジタルに展開させることは難しく、ましてや量子論のように飛び飛びとなるともうお手上げだ。

 マイナンバーカードの普及を目論んだポイント還元システムが検討されているとの報があるが、マスターベーションにはまっていないことを祈るばかりだ。そもそもマイナンバーそのものがそうであった可能性が否定できず、マスターベーションにマスターベーションを掛け合わせても、算数のごとく正の数になることはない。

 善玉の性はエレガンスなアルゴリズムを追求するモチベーションだ。どんな入り組んだアルゴリズムやプログラムでもコンピューター君はモチベーションを下げることなく働いてくれるから偉い。
しかしながら、縮れ面でスパゲッティ化したそれらはCPUやフラッシュメモリーなどのリソースをいたずらに浪費する。そればかりか、その後バージョンアップする際にもバグ取りの必要性が出てきた際にも手に負えないモンスターと化す。

 美しいものには無駄がなくシンプルであることは、芸術や建築などアートの世界にも共通する原理原則だ。交通系ICカードによる決済は極めてシンプルなので抵抗はないが、それ以外のキャッシュレスシステムには腰が引けてしまう人々が少なくないもの頷ける。

 無駄なくシンプルという価値はファッションにも浸透した。これだけユニクロが受け入れられた理由はまさにそれ。外資系のファストファッションがわが国で受け入れられないとしたら、品質的耐久性に無駄あり、デザイン的にシンプルとは程遠いと消費者に判定されたからだ。

 断捨離とはまさにエレガントな生き様を模索する人生の美しいありようのことである。