山田 晶子

2018 17 Jul

「ブランディング」と社会潮流

 

  【社会潮流】は、ファッションに示唆を与えてくれる…前回、社会潮流のキーワードのひとつとなっている「Disruption(ディスラプション)=破壊、混乱」が、「ファッションビジネス」のみならず、「ファッション」そのものを構成する【もの】自体にも、起こりはじめている…事例を紹介しました。

今回は【ブランディング】が、どのように変容しているか…を、イメージとする事例と共に探ってみたいと思います。

Disruption is New Normal(ディスラプションは新しい普通)」!

 

 ◼️「ブランディング」とは?

今回、イメージ事例として挙げる【ブランドX】は、スタート時のブランド・ディレクターが諸々の背景の中、ブランドを去り、個性豊かなデザイナー諸氏によるデザイン・チームが引継いで、ブランド継続を行なっているブランドである。

現在、バイヤー兼務のブランド・ディレクターも在籍されている様ではありますが、役割としては、立上げ時のブランド・ディレクターとは異なっている模様。「ブランドの世界観を描き、ターゲット顧客に対して、その洋服を装えば、そのブランドの世界観を体感できる」様に、【もの】を通じて示唆し、具現化していくことが「ブランディング」の大きな機能のひとつだとしたら、あいにく、現在の【ブランドX】には、その機能は希薄である様に見受けられます。

ある知人の【ブランドX】に対する印象は、「以前は【ブランド】になっていたので、その世界観が好きだったし、欲しいものが多かったけれど、今は、欲しくて仕方がない洋服と、自分は全く着ないだろうと思われる洋服が混在している」というものだった。似た内容を口にする方々は少なくない状況であり、それだけ振り幅が、拡大の一途を辿っているブランド…というところが現状かと思われる。

多分、【社会潮流】…と言うよりも、【業界都合】と言うべきではあるが、かつての「ブランド・ディレクター」という役割は、昨今のビジネス効率上、存在しにくい役割となっているのかと推察される。そんな中【ブランドX】は、どの様な活路を見出していくのか…?

 

◾️「アパレル」が「セレクト」になる

日本発のセレクトショップは、ほぼSPA業態と言っても過言ではない昨今、何故そういった方向に展開されていったのかと言えば「粗利向上」のためであり、仕入品だけ販売していたのでは、規模感が拡大すればするほど、薄利は進み、自社製品を生産・販売してこそ、規模に見合った利益が獲得できるといった構造によるものである。

セレクトショップはスタート当初、「品揃え店」とも言われており、全く異なる世界観で生まれた各国の商品たちを、自身のセレクトショップのフィルターによりバイイング、顧客から見て「何故、これがここにあるの?」といった違和感を放つことなく、独自の世界観を構成するひとつの【もの】と成り得ていた。

筆者は、この逆ヴァージョンが、今後の【ブランドX】の活路の見出し方なのか…と推察する。個性豊かなデザイナー諸氏による洋服たちに、あえて「世界観」を託すことなく、「ワンランク上の満足感を求める」というコンセプトのフィルターの元、セレクト商品の様に、幅広いラインナップで展開、そこに雑貨仕入品や海外老舗ブランドとのWネーム商品が加わると、スタイルとしては「セレクトショップ」が成立する。これも、ひとつのディスラプション…粗利の限界値までは、新しいビジネススタイルとして注目したい…が、

現実的にはそれ以前に、個性豊かなデザイナー諸氏の中の数名による、別ブランドのデビューも考えられないこともない。セレクト商品的なオリジナル商品の振り幅は、結果として狭くなり、洋服の仕入品も増えていくと、従来型のセレクトショップに移行されるのかとは思われる…。

ある意味、一過性のビジネススタイルの可能性はあれど、既成概念をディスラプションさせてはいる。

 

◾️顧客ニーズも社会潮流から

最後に、「顧客の声」をいかに商品に反映させつつ、【ブランディング】を行なっていくのか…に関してを考察していきたい。

かつて、セレクトショップ在籍時代に、ショップスタッフと商品部スタッフの会議にアテンドしていた折、MDからショップスタッフへ「皆さんからの声は、1年後の商品制作へも反映させていきたいと思いますので…」とあり、それに対して、あるショップスタッフが「私達は、今のお客様の声を伝えているだけです。1年先まで責任は持てませんから、そういうことは商品部内で決めてください!」との発言があった。

彼女の意見は正しいと思った。 顧客は1年先に着たいものの話は、全くしていないのである。 しかし、その顧客の声を、次シーズンのものづくりへ「額面どおり」に反映していこうとする商品系スタッフは、現実に少なくない模様である。

では、「額面どおり」に活用できない顧客の声は、何のために収集するのか…?

顧客の声は【何】を意味していて、【社会潮流】の中で、どの様に変容して、1年後の「着たいもの」に繋がるのか…? それがプロの商品系スタッフの仕事のひとつではないのか…と思われる。

顧客は、供給側のプロではなく、そのシーズンに自分の金銭を支払い「欲しいもの」を購入してくださる消費のプロなのである。 当該シーズンに、そのブランドが【社会潮流】による生活者の気持ちを図り、ブランドアイデンティティを具現化するものを提供できた時、顧客は、商品を購入してくださる。 顧客に「迎合」し過ぎると、【ブランディング】は崩れ始め、商品も購入していただけなくなる…。そうやってフェイドアウトしていくブランドも、少なくない。

あるファッションビルの企業理念に「お客様の想いの先を読み、期待の先を満たす」といったフレーズがある。 「想いの先」や「期待の先」は、どの様にして、知り得ることができるのであろうか?

それこそは【社会潮流】の深掘り…!

【社会潮流】は、ファッションが向かうべき方向を示してくれ、21世紀のファッションビジネスに活路を与えてくれます。

では、また次回!

【社会潮流】の深掘りを致しましょう…!!