山田 晶子

2018 18 Jun

服が人を作る。

【社会潮流】は、ファッションに示唆を与えてくれる…

織物は、あらかじめ並べられた経糸に、緯糸を入れて進められる。《経》とは、理念・思想・精神を意味すると言われている。時間と空間を織り込むような緯糸が【社会潮流】だとすると、経糸にはどんなものがあるのか…?

3ヶ月ほど前の「BRUTUS」に、「服が人を作る。」という特集があった。勇気がある特集だと思った。異業種の知人からは「ファッション業界は斜陽産業ですものね」とサラッと言われる今日この頃。傾いている産業が提供している製品に関してスポットを当ててくださった特集…人と洋服の関係性、洋服が人に与えてくれるもの…洋服愛に溢れる、感涙なくしては読めない珠玉の一冊でした。洋服愛…しばらく聴かない言葉ですが、服は私達に、何を与えてくれているのか…?

 

 

 


https://magazineworld.jp/brutus/brutus-866/

 

 

■服が人を作る

往年のアイドルグループキャンディーズ(「ブラックペアン」の看護師役趣里ちゃんのママが所属していたグループ)の楽曲「春一番」(作詞: 穂口雄右氏)では、おしゃれをして男の子が出かけていったり、

もうすぐ春なのでちょっと気取ってみたり、泣いていても幸せは来ないので重いコート脱いで出かけてみたり…洋服が気持ちや恋を盛り立ててくれている。 これはある意味、洋服の役割の王道!

現在、ノーベル文学賞レギュラーノミネート作家的なポジションとなっている村上春樹氏の小説を読書中、突如、登場人物の着衣に関しての描写が登場した折、「何故、今、着てるもの…?」と思いながらも読み進めていくと、4次元のムードで象られていたその人物が3次元の人としての輪郭を持ち始め、物語の中に体温を与えてくれていた。 服の力は強い!

「彼女がその名を知らない鳥たち」で、共感しづらい屈折したヒロインを演じた蒼井優さん(本作で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞)は可憐な花々を配したフロッキーコートを、よく着用していた。「性格は良くないけれど、綺麗なものは好きな人なんだな…」と思って観ていると、確かに美しい男の人の後ばかり付いていく女性だった。バッドアクシデントを乗り超えながら、彼女は新たな世界に遭遇して旅立つ予感…でラストとなるのだが「やっぱり、ああいうコートをお気に入りとしていた彼女には、美しい心が根っこにあったんだ」と思わせ、服を愛する心が人の運命に呼応していく!とまで思わせてくれた洋服の役割!(ここまで感じる観客は、かなり少ないとは思われるが)

以上は、《経糸》の放つエッセンスの事例です。

 


https://eiga.com/movie/86417/

 

■【社会潮流】は様々な《経糸》に反応する

現在、放送中のNHK連続テレビ小説「半分、青い。」は、8090年代を背景に展開されているが、井川遥さん演じる漫画家事務所の秘書〈菱本若菜〉は、常に「ピンクハウス」を着用している。それが現在SNSで話題沸騰! 「かわいい」「懐かしい」との反響が押寄せ、ツイッターでは「ピンクハウス」がトレンドワード入りしたとのこと、朝日新聞でも、その現象に、文化欄で特集が掲載されていた。その記事によると、脚本家の北川悦吏子氏の強いこだわりがあったとのことで「ピンクハウスは、時代(8090年代)を代表するブランドであり、メルヘンチックな服で、着るには強い意思が必要。厳しい性格かつ優しさを持ち、こびない役柄に合う」と、記載されている。

リアルタイムで着用こそはしていない私だが、当時を思い起こすと、その「振切り方」はコスプレ的なドリーム感とは一線を画し、一種の「哲学」や「気概」を内包して、確固としたアイデンティティを発していたと思われる。 そういったブランドとしての《経糸》が明確であったが故に、この2010年代後半の女性共感マインドとも言える「強さ、優しさ、厳しさ」に呼応して、「人を作る服」として、脚光を浴びたのではないだろうか…? これも、ひとつの【社会潮流】ではある。

 


https://www.nhk.or.jp/hanbunaoi/

 

2010年代後半 「服は人を作れるのか?」

2030年~2040年頃、2010年代が舞台のドラマがあったとして、代表的なブランド…が登場することは考えにくいと思われる。現在は、生活者の多様性もさることながら、提供者側も、洋服に対して「哲学」や「気概」をもって臨んでいるのかどうかは「?」であり、それはある意味、「時代の声」でもあると思われる。

では、このままずっと、ファッション産業は傾いた産業のまま、21世紀を進んでいくのか…?

【社会潮流】は、いつの時代でも、存在している。 

生活者は、何を抱えて、どんな気持ちになりたいのか?

この潮流の中で、ファッションの役割は何なのか?

そこを深掘りしていくことで、「哲学」や「気概」も生まれ、「服が人を作る。」行為は、「生活者を支える、励ます、エールを贈る」行為へと変貌していく…

人は、自分が稼いだ金銭を、「なりたい自分」に費やしていく…それは、真のニーズであろう。

 

冒頭、「服が人作る。」というタイトルに、あるデザイナーは、

「その服も人が作りますね。深いですね。」と言っていた。

決して浅い話ではない。

【社会潮流】は、ファッションが向かうべき方向を示してくれ、21世紀のファッションビジネスに活路を与えてくれる。

【社会潮流】の深掘りにご興味のある方は、どうぞご連絡を。 

では、また次回!!