宮田 理江
2023年度(第41回)毎日ファッション大賞の表彰式開催 大賞は黒河内真衣子氏 積み重ねた実績に敬意
2023年度(第41回)毎日ファッション大賞の表彰式が2023年10月16日に開催されました。日本で最も歴史の長いファッションアワードならではの権威を、あらためて実感しました。選考委員として臨んだ表彰式で、この賞の重みを受け止め、選考に参加できたことを光栄に思いました。大賞をはじめ、受賞した皆さんがそれぞれに思いのこもったメッセージを述べました。おめでとうございます。
◆大賞 黒河内真衣子氏 「Mame Kurogouchi(マメ クロゴウチ)」デザイナー
歴史のある毎日ファッション大賞を受賞したことに敬意とよろこびを示し、13年前に自分一人で始めたブランド「マメ クロゴウチ」の歩みを振り返りました。13年間で一番の財産は一緒に働いてくれるスタッフができたことだそうです。一緒にものづくりに励んでくれる工場や職人の方々に尊敬と感謝の念を述べました。「mameは私のあだ名からついたものです。そのブランド名が私個人の物ではなく、スタッフひとりひとりのmameになったことが私にとって言葉にできないほど、幸せ。私らしいやり方で誰かにとっての素敵な1着を届けられたらいいなと思っています」と思いを語りました。ものづくりの難しさに直面したことや、この1年で通常のコレクションだけでなく、様々なコラボ、プロジェクトを通した学びが多かったことなどにも触れました。「マメ クロゴウチ」というブランドを宝物のように大切にしている様子や、工場、スタッフ、お客様への愛情を感じさせました。同時に、ものづくりへの自負も伝わってきました。長野県で開催された展覧会でも感じたことですが、1着に込めたエモーションの濃密なこと。服を着ることによって、創り手のパッションまでまとえるような気がします。単なる「商品」ではなく、「情品」と呼びたくなるような思い入れの深さに毎回、圧倒される思いです。
◆新人賞・資生堂奨励賞 川崎和也氏 「Synflux(シンフラックス)」代表取締役 CEO
ファッション産業の持続可能性、循環、再生のため、人工知能や人工生命を共創関係としてデザインのプロセスに招き入れています。コレクションデザイナーではなく、スタートアップで活動していると述べたうえで、こうした経緯を経て新人賞の選考では白熱した議論があったことをうれしく光栄だったと語りました。「デジタルテクノロジーを単に競争的なために使うのではなく、地球解決に向けて、ファッションを通してつくって考えていきたいと思います」と発言。未来に向けての持続可能なファッションのための抱負をエネルギッシュにベンチャー企業社長らしく頼もしく語りました。デザイナーではない、スタートアップ企業の経営トップが選ばれるのは、やや異例な感じがありますが、今はファッションの転換期にあり、「創り手=デザイナー」ではなくなりつつあります。新しい時代の空気を吹き込んでくれる、広い意味での創り手に賞を贈る意味は大きいと感じました。
◆鯨岡阿美子賞 栗野宏文氏 ユナイテッドアローズ上級顧問
1977年にファッション業界に入り、46年にわたってファッション業界に身を置いていると語り、ファッション関連では意外にも初めての賞を受けた喜びを語りました。「販売の仕事とバイイングの仕事とディレクションの仕事と経営という仕事もやらせていただき、いまでもファッション最前線にいるのが一番好きで楽しくて、そこの楽しさをこれからも伝えていけたらなと。これからもいい洋服屋でありたいと思います。」という言葉が栗野氏らしさを象徴しているでしょう。現場を重んじる人らしい、プラウドですがすがしいスピーチでした。日本のファッション界を長く見てきたことに加え、しっかりと自分の視座を持っている点で本当に貴重な識者です。洋服を着るお客様への感謝の気持ちを述べたのは、現場に長く携わっていたからこそでしょう。「創り手」の陰に隠れる格好で、ファッションアワードで抜け落ちてしまいがちな「売り手」に贈賞できたのは、とても有意義なことでした。「洋服屋」という言葉が素敵に響きました。
◆話題賞 グランドセイコー
63年ほど前に時計の世界の最高峰を目指すとしてブランドが誕生した歴史から語り起こしました。2017年にブランドが独立して世界の高級時計の中で存在価値を高めていることを述べて、あらためてブランドの立ち位置を示しました。石黒実セイコーウオッチ副社長は「グランドセイコーだけを売る店舗を広げています。今回の賞を励みに、これからも日本のラグジュアリーブランドを目指してブランド価値を高めていきたい」と目標を高く掲げました。今回の賞では、「日本」が共通テーマになっていたようなところがあります。グローバルファッションでも自国・地域の文化を重んじる傾向が強まっています。「グランドセイコー」はそうした評価にふさわしいブランドと映りました。
◆話題賞 のん氏 俳優、アーティスト
昔からファッションが好きで、自らのキャリアがモデルから始まっていることを明かしたうえで、「本当に洋服が好きでたくさん服が着たいという思いからこの世界に飛び込んできたので、ファッションで賞をいただけるのがめちゃくちゃうれしいです」と、弾けるような笑顔をのぞかせました。自身が立ち上げたブランド「OUI OU(ウィ・ユー)」が評価されたことにも喜びいっぱい。「私は強い意志を持ちたいとき、挑まなきゃいけないときに、ファッションに力を借り手頑張ってこれたので、ファッションの喜びを体現していきたい」というのは、心に刺さる言葉でした。ファッションを通して人を幸せにしたいという思いも語っています。オーバーサイズでジェンダーレスのパンツスーツを着こなしたこの日ののん氏。ファッショニスタとしても人気のある彼女らしさが印象的でした。
◆特別賞 文化学園
関東大震災が起きた1923年に創立し、洋裁教育の普及に努めた文化学園。大勢の優れたデザイナーを送り出した、日本ファッションの苗床として誰もが知る学びの場です。文化学園理事長・文化学園大学長の清水孝悦氏の受賞スピーチでは創立当初の経緯から始まり、その後も服飾文化の向上に貢献してきた歴史が語られました。「現在は創造力のある若者の育成に努めています。これからは一人ひとりの学生を大切にして、それぞれの学びの希望に応えるような教育をしていきたい」と、次世代を育てる、さらなる意欲を示しました。今年で100周年を迎える節目の年にふさわしい栄誉となりました。
表彰式の後は、川崎氏のSynfluxとゴールドウインのコラボレーションプロジェクト「SYN-GRID」プレゼンテーションと映像が披露され、「A-POC ABLE ISSEY MIYAKE」(エイポック エイブル イッセイ ミヤケ)」を手がける宮前義之氏と川崎氏による「ファッションの未来」を語り合うスペシャル対談が開催されました。
日本各地の伝統的な服飾文化や工芸をたずね、職人さんたちと協働する黒河内氏をはじめ、それぞれの受賞者が興味や関心を深掘りして、新たな表現やビジネス、領域を生み出しているところが今回の受賞者の共通点だと感じます。誰かの追随ではなく、手本やロールモデルがない試みに踏み出す勇気を持った人たちが特別な評価を受けるという、ファッションの鉄則を証明した形です。そうした方々への表彰は次の世代にもチャレンジの機会や気づきを提供する点で意義の大きいことだと言えるでしょう。
「2023年(第41回)毎日ファッション大賞」表彰式 / 提供:毎日新聞社
2023年第41回受賞者一覧 / 受賞のことば / 選考委員講評
https://macs.mainichi.co.jp/fashion/win41/index.html
毎日ファッション大賞
https://macs.mainichi.co.jp/fashion/
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