宮田 理江
細部へのこだわりと深い日本愛 ウェス・アンダーソン監督の新作映画『犬ヶ島』
ファッション業界でもファンの多い映画『グランド・ブダペスト・ホテル』(2014年)を撮ったウェス・アンダーソン監督の新作映画『犬ヶ島(いぬがしま)』が2018年5月25日(金)から公開されます。モードの世界でもカタカナや漫画、和風柄など、日本を題材にした表現が広がっていますが、『犬ヶ島』は舞台が日本。スクリーンにも日本モチーフがふんだんに注ぎ込まれています。
これまでに撮った『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』『天才マックスの世界』などは人間の俳優が演じる実写版でしたが、今回は主にストップモーション・アニメーションの技法で描かれています。1コマずつ撮影していく、気の遠くなりそうな手間をかかかる手法です。第68回ベルリン国際映画祭では銀熊賞(監督賞)に輝いています。
ウェス・アンダーソンのセンスが炸裂したキャラポスター
病気が流行したせいで、メガ崎市の犬たちは「犬ヶ島」に隔離されてしまいます。島に送られてしまった愛犬を探すアタリ少年と、島で出会った犬たちの冒険を描く物語です。
声優陣には有名俳優が大勢参加しています。ビル・マーレイ、ジェフ・ゴールドブラム、エドワード・ノートン、ハーヴェイ・カイテルらはアンダーソン映画でおなじみ。新たにスカーレット・ヨハンソンやヨーコ・オノも加わりました。日本人ボイスキャストにはRADWIMPSの野田洋次郎、村上虹郎、渡辺謙、夏木マリといった、多彩なキャストが名を連ねています。
黒澤明監督の作品をはじめ、アンダーソン監督が敬愛する日本映画へのオマージュがあちこちに感じられます。太鼓の響き、サムライの物語など、日本的な要素も随所にちりばめられていて、アンダーソン監督の日本好きがうかがえます。
細部で興味深いのは、日本語フォントへのこだわりです。一般的にアメリカ映画の場合、スクリーンに映し出される文字は、日本語字幕を除いてほとんど英語になりますが、今回はひらがな、カタカナ、漢字が繰り返し現れ、日本語の台詞も耳に入ってきます。文字のフォントデザインはデザイン的に洗練されていて、アンダーソン監督らしいグッドセンスを漂わせています。個人的には、たくさんのお酒の瓶でつくられた「かまくら」の中のシーンがファンタジックで好きでした。
作り込みの深さが並大抵ではありません。ワンショットに詰め込まれている情報量が多くて、スローモーションや巻き戻し機能を使いたくなるほど。たとえば、メガ崎市のネオンサインには「ホクサイビール」「ラヂオ」「サウナ」などの文字が見えます。近未来という設定ですが、むしろ少し懐かしい日本の情景がベースになっています。ファッションの世界で盛り上がっている「レトロフューチャー」の気分も帯びています。
着こなしの面でも、主人公のアタリ少年が着るパイロット服、女子高生が着るセーラー服など、アイコニックな装いが登場。カシュクール風に打ち合わせる和服ライクなジャケットも持ち込まれました。独善的な市長は極端に肩の張ったスーツを着ていて、服で登場人物のキャラクターを印象づけています。
ありきたりの愛犬友情ストーリーに見せていないところは、さすが。シニカルなまなざしやウィットフルな台詞回しが犬たちの性格に深みをもたらしています。
公式サイトには予告編(トレーラー)のほかにも、丁寧に作り込まれたページがたくさんあって、映画の内容を思い出しながら、余韻に浸るのにぴったり。サイト内も宝探しのように凝っていて、いろいろなところをクリックして楽しめます。
ファッションの世界でも手の込んだクラフトマンシップが重んじられるようになっていますが、職人気質のアンダーソン監督ならではの入念な仕事ぶりは素敵な凝り性のたまもの。世界的に注目を集めているカタカナ(ひらがな)のフォントなどの細部に目を凝らしてもう一度、見直したくなりました。
■日本公開日:5月25日(金)全国ロードショー
■原題:ISLE OF DOGS
■配給:20世紀FOX映画
■コピーライト:(c)2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
■公式サイト:http://www.foxmovies-jp.com/inugashima/
■公式Facebook:https://www.facebook.com/FoxSearchlightJP/
■公式Twitter:https://twitter.com/foxsearchlightj
Written By Rie Miyata
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