宮田 理江
2019年度(第37回)毎日ファッション大賞の授賞式開催 森永邦彦氏が念願の大賞受賞 令和とともに新しいファッションの時代へ
2019年度(第37回)の毎日ファッション大賞の授賞式が11月8日に開催されました。光栄なことに、これまでに引き続き(2014年~)、今年も推薦委員を務めた私も参加しました。東京・恵比寿のEBiS303で開催された授賞式では、念願の大賞に輝いた、「アンリアレイジ(ANREALAGE)」の森永邦彦デザイナーをはじめ、受賞した皆さんそれぞれがよろこびや感謝の言葉を語りました。おめでとうございます。
◆大賞 森永邦彦氏 アンリアレイジ(ANREALAGE)
大賞の森永氏は過去に何度もノミネートされながら、受賞は逃してきたそうで、文字通り、待望の受賞。2011年に新人賞・資生堂奨励賞を受賞してから、8年で頂点に登り詰めました。
2018年はブランド設立15周年のタイミングを迎え、過去にもまして一段と活動が勢いづきました。19年に入ってからも「LVMH Prize for Young Fashion Designers 2019」のファイナリストに選ばれ、国際的な評価が高まっています。
選考理由にもなったのは、テクノロジーを生かした、独創的なクリエーション。光の当たり具合や周囲の明るさ次第で、見え方がドラマティックに変化する素材を使った服は、パリでも賞賛されました。新素材の開発は、多くのデザイナーが試みていますが、目の肥えたプロを驚かせるほどの成果を出している点で、森永氏の取り組みは特別と言えるでしょう。
斬新なアプローチに注目が集まりがちですが、実は森永氏の強みは、この日の受賞スピーチでも述べていた「粘る」というところにあります。結果が出るまで、探求を重ね、結果が出てからもさらに掘り下げる。この粘り強い制作スタイルが数々の成功を呼び込んできました。
たとえば、創業以来、一貫して続けているパッチワークもその一例です。ぶれないクリエーションを象徴する取り組みで、カルト的なファンを生みました。ブランド立ち上げ当時からのコアメンバーを軸にした家族的なチームワークも森永氏の人柄を示しています。
表現の懐が深いのも、「アンリアレイジ」のブランド価値を高めています。業種を問わず、コラボレーションのオファーが続くのは、森永氏の多彩な表現力への期待感の大きさを物語ります。なぜこんなにもたくさんの企業からオファーが絶えないのかと、囲み取材で質問したところ、お互いのカルチャーの違い、出会っていなかった価値観が引き合うということをおっしゃっていたのが印象的でした。時間があれば、さらにいろいろやっていきたいという前向きな姿勢も見せていました。
毎日新聞の記者だったジャーナリストの田中宏氏は同賞の創設を支えた人物として知られています。「アンリアレイジ」の立ち上げ当初から、田中氏は森永氏を応援していたそうで、長年の励ましに感謝する言葉も受賞スピーチで述べられました。チームでの仕事を重んじる森永氏は授賞式でも、ブランドを支えてくれた人たちへの感謝を述べて、受賞の栄誉を分かち合いました。
特別な動画も披露されました。今回、受賞者である森永氏自身が、自らつくったという、2011年からこれまでのショーを、バックステージから振り返ったダイジェスト動画が上映され、8年間の飛躍的な成長と、それを支えた人たちの存在を来場者に印象づけていました。
帰りには来場者全員に、スマートフォンでフラッシュ撮影すると、色が変わって見えるという、お土産のトートバッグも用意するといったところにも、丁寧な人柄やブランドらしさが表れています。授賞式で着ていたパッチワークのタキシード風スーツも印象に残りました。何度かの取材を通じて、チームの和を知る者として、こういう受賞者を出せたことには、推薦者の一員としてもよろこびを感じました。
◆新人賞・資生堂奨励賞 岩井良太氏 オーラリー(AURALEE)
新人賞・資生堂奨励賞は「オーラリー(AURALEE)」の岩井良太デザイナーです。2015年春夏シーズンからスタートした「オーラリー」は、パリでプレゼンテーションを果たすまでに成長しました。岩井氏は受賞スピーチで、工場や卸先、チームへの感謝の気持ちを示したうえで、これからも真摯な服作りをしていきたいと述べました。
当日はファッションショーが開催されました。シンプリシティーを重んじた、すっきりとしたシルエットに、軽やかでジェンダーレスなテイストが心地よいムードです。「技ありミニマル」に向かう、今のモードの流れにマッチしています。堅苦しくないシルエットの中にも、随所に工夫が凝らされていて、自在に着こなしやすいウエアを提案。「自然な空気感」という、デザイナーの表現はこのブランドを見事に言い表しているようでした。
◆鯨岡阿美子賞 鈴木淳氏 台東デザイナーズビレッジ村長
鯨岡阿美子賞は台東デザイナーズビレッジの鈴木淳村長に贈られました。台東区によって設立された、ファッションや雑貨、デザイン関連のビジネス分野で創業者を支援する施設です。創業の時期には、アトリエの確保や資金の調達に悩まされがちな新進デザイナーやファッション関連企業を支えてきた、「縁の下の力持ち」的な仕事が評価されました。鈴木村長は「デザイナーたちと一緒に成長してこられたことを幸せに感じる」と、よろこびを語りました。
◆話題賞 無印良品銀座
◆特別賞 日本環境設計
話題賞は無印良品銀座が受賞しました。金井政明会長と有田明央銀座店店長が登壇。「ヒトとつながる」「マチをつなげる」をコンセプトに、公園のような場所であり続けたいという受賞コメントは、そのまま受賞理由を説明しています。特別賞には日本環境設計が選ばれ、岩元美智彦会長が受賞スピーチに臨みました。服のリサイクル事業を手がける同社が選ばれたことは、サステナビリティがファッション界で最大のテーマとなってきた今を映しています。受賞コメントでは「最初に取り扱ってくれたのは、(話題賞の)無印良品でした」という、不思議な縁を感じさせるエピソードも披露されました。
◆選考委員特別賞 小泉智貴氏 トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)
今回は初の選考委員特別賞が設けられ、「トモ コイズミ(TOMO KOIZUMI)」ブランドの小泉智貴デザイナーが受賞しました。ニューヨークでシンデレラ的なデビューを飾り、話題を集めましたが、実は衣装デザイナーとして8年のキャリアがあるそうです。独学で重ねたクリエーションが評価されたという異色のキャリアは、これからのデザイナーにも勇気を与えてくれそうです。今回も9月にNYでショーを開催し、翌10月には東京コレクションでもドラマティックなショーを披露して、圧倒的な存在感を世間に見せつけました。受賞コメントでは、最初に見いだしてくれたマーク・ジェイコブズ氏へのお礼を述べ、アメリカンドリームを成し遂げたよろこびを示しました。
令和になって初めての大賞受賞者に、新世代を代表する存在の森永氏が選ばれたことは、毎日ファッション大賞自体が新しい時代に入ったことを感じさせます。ジェンダーレス、ノンエイジを思わせるオーラリーの受賞も今の流れを物語るかのようです。サステナビリティ企業のシンボル的な日本環境設計の受賞にも、ファッションを取り巻く環境の変化が感じ取れた授賞式でした。
©「2019年(第37回)毎日ファッション大賞」表彰式/提供:毎日新聞社
毎日ファッション大賞
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