宮田 理江

2020 18 Nov

2020年度(第38回)毎日ファッション大賞の授賞式開催 「ビューティフルピープル(beautiful people)」の熊切秀典氏が大賞受賞 withコロナは装うことで幸せに

2020年度(第38回)毎日ファッション大賞の授賞式が2020年11月18日に開催されました。光栄なことに、これまでに引き続き(2014年~)、今年も推薦委員を務めさせていただきました。授賞式は東京・恵比寿のEBiS303で開催(オンライン生中継を同時進行)。大賞を受賞した、「ビューティフルピープル(beautiful people)」の熊切秀典デザイナーをはじめ、受賞した皆さんそれぞれがメッセージを述べ(ビデオ、代読含む)、受賞を祝い合いました。おめでとうございます。

 

◆大賞 熊切秀典氏 ビューティフルピープル(beautiful people)

洋服の道を志したきっかけである川久保玲さんが第1回の大賞受賞者である毎日ファッション大賞を受賞したことを、工場、生地屋を含め、スタッフの代表として受賞したと感謝を述べ、「コロナ禍でパリコレには行けなかったが、じっくりものづくりに取り組むことができた。世の中に対する新しい見方を見つけていかなくてはならない、このような節目の年に受賞できて大変うれしい」「今回の大賞の受賞理由が型紙設計の新しい可能性である『Side-Cの展開』であることを、うれしく思う」と喜びを語りました。

ファッション業界を志す学生に向けては「僕もブランドを始めた頃から、好きだからやり始め、それは今も変わらず、楽しいからやっている。楽しいと思って始めたことを、ちゃんと続けていくことが大事。好きなことを頑張って続けよう」と、将来への希望を感じさせる応援メッセージを発してくれました。

「ブランド名の“ビューティフルピープル”は世界のすべての人を指す」という言葉も印象的でした。オンラインで発表した2021年春夏コレクションでは、椅子やソファに服が融け合うかのような、ファンタジーを描き出したアイテムを披露。不安の時代に、あえて朗らかなボリュームでステイホームを楽しく美しく過ごせるような提案でした。

ほのぼのしたテイストがニューノーマル生活を楽しませてくれそうなオンライン限定ブランド「beautiful people feels(ビューティフルピープルフィールズ)」も立ち上がり、受賞後もますます楽しみです。

 

◆新人賞・資生堂奨励賞 横澤琴葉氏 コトハヨコザワ(kotohayokozawa)

「今年の1月に出産し、ファッションと関わるのが難しいと思っていたところに受賞を知り、うれしかった。変化の年だからこそ、変わらないことは何かを考えるいい機会になった」と感謝を述べました。

「変化があり、環境が変わった。人と会うことが少ないからこそ、直接会ったような気持ちになるような機会を与えることができたら。自分からつくりだせたらという気持ちがあって向きあっている。こんな時だからこその、プレゼンテーションとトークショーをミックスしたような面白い演出でコレクションをお見せしたい」と表彰後に開催されるショーに関しても語りました。

 

◆鯨岡阿美子賞 ファッション甲子園実行委員会

会長を務める清藤哲夫氏の代わりに弘前市商工部長の秋元哲氏が登壇。会長のメッセージを読み上げました。「ファッション甲子園実行委員会は20年続いている。全国から参加される高校生、先生、審査員、関係者の皆様で成り立っている。このような賞をいただき、大変光栄。高校生のみずみずしい感性が作品に反映されている。未来のファッション業界を志す若者にとってのフィールドとなっていきたい」――。毎年8月末に開催されている大会を今年は11月下旬にオンラインで開催する予定だそうです。

 

◆話題賞 ワークマンプラス(WORKMAN Plus)

ワークマンの土屋哲雄専務がビデオメッセージでコメントを寄せました。「私どもの会社は40年間、ひたすら作業服だけを作ってきた。ファッションとして認められたというのは、素直にうれしく、社員の自信にもつながった。」と感謝を述べました。

「広告を打ったり、プレスリリースを出したりもせず、アンバサダー制度を行っている。このアンバサダーの皆さんが、熱心で商品に詳しい。商品リリースを出す代わりに、アンバサダー経由で新作を発表(金銭関係は発生しない)。ファンはアンバサダーのサイトやSNSをフォローして、そこからユーザーは商品を購入。リアルとSNSをつないでいくコネクテッドストアである」と支持されている理由を語りました。

「ワークマンとワークマンプラスは工事現場の作業着の人たちのための店。彼らは車で店に来るため、駐車場などが必要だ。そういった方々を大事にするために、店を分けたい。女性たちがたくさん来て、店が混んでしまうのを避けるために“#ワークマン女子”の店をつくった」と興味深い内容を語りました。

 

授賞式のフィナーレを飾ったのは、「kotohayokozawa」のショー。プレゼンテーションとトークショーを組み合わせた、ユニークな演出でした。“テキストレーター”のはらだ有彩さんとの対談形式で、新コレクションに込めた思いを語りました。

「コロナ自粛のときに、ご近所で過ごす日々の中で、部屋着につっかけでスーパーに行くような、人々の“隙”がありすぎる装いなどを見ると胸がキュンとした。」今回のコレクションはそういうところを誇張していると述べました。普通は人目にさらされないところが見えると、グッとくる。なかなか見せてもらえないから、私が見せればいいやと考えたことが、ユーチューブ公開や、今回のコレクションの着想につながったという。

この日着用していた服は新ラインの「サムバディコトハヨコザワ(somebody kotohayokozawa)」。シーズンが異なる服を切り裂いて作った1点物だそう。片方が半袖、片方が長袖と、左右の袖丈がずれていて、ウイット感と個性を感じさせます。

アイテムの着こなし方に関しては、「手持ちのいろいろな服を混ぜてもらうことによって、(自分の服の存在感が)どんどん薄まっていく感じがいい。自分のいいところ、悪いところを全部受け入れて、自分のことをよく知っている人の着こなしは素敵だなと思う」と、独特の着こなし観ものぞかせました。

 

歴史的な節目となった2020年。今回の受賞者の顔ぶれは、着る人・買う人ときちんと向き合って、まじめにものづくりに取り組んでいるクリエイターが評価を受けたと見えます。そして、授賞者の皆さんの言葉も、withコロナを自然に受け止めるしなやかさが印象的でした。

時代の空気感やオーディエンス(消費者)の潜在的ニーズを先回りして、クリエーションに写し込める人たちだとあらためて感じました。

「おしゃれは我慢」などの言葉が昔はありましたが、今は自分が着ていて楽しい、気分がいいといった感覚が大事になっています。着心地、機能性などを重視して、自分のための服を選ぶ傾向が強まる中、ファッションには人を幸せにする力があると、確信させてくれた授賞式でした。

 


©「2020年(第38回)毎日ファッション大賞」表彰式/提供:毎日新聞社

毎日ファッション大賞
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