宮田 理江
ユニクロ「LifeWear」2023年春夏コレクション・展示会リポート ベーシックが進化、エッセンシャルな服へ
UNIQLO(ユニクロ)の「LifeWear」の2023年春夏コレクションが発表されました。今回のメッセージは「The Art of Everyday Life」。日々の暮らしそのものを「アート」ととらえるようでもあり、同時に「art」が持つ「術」という意味のほうから、生活術に寄り添うような意味も感じ取れます。過去3年間の日々を通して、「日常」の価値を再確認することになっただけに、いっそう心に響くメッセージです。
テーマを象徴する素材は「リネン」です。自然な風合いが穏やかで気負わない暮らしぶりを印象づけます。「着る人をサポートし安心させて、暮らしを豊かにする」というエッセンシャルな服を提案する今回のコレクションにふさわしい素材と言えるでしょう。
シャツのイメージが強いリネンですが、新シーズンのユニクロはアイテムの種類が多彩。ボトムスやライトアウターにも生かしています。
ナチュラル感を宿した、リネン特有の質感は、「着るSDGs」のようなたたずまい。適度なしわも自然体のムードを醸し出してくれそうです。
コレクション全体に漂うのは、伸びやかでポジティブな気分。約3年間に及んだ「我慢」の時間を経て、ようやく各種の規制が解かれたことを受けて、春夏らしいさわやかでアクティブな雰囲気をまといました。足さばきが楽そうなボトムスや、ひじまで袖をたくし上げた着こなしにも、外出を楽しむ日々の様子がうかがえます。
鮮やかな色が戻ってきたのも、新シーズンの前向き感を示しています。パントン社が23年の「Color of the Year(今年のカラー)」に選んだ、深紅色の「ビバ・マゼンタ(Viva Magenta)」にも近い赤系カラーも登場。フェミニンで楽観的なムードを呼び込んでいます。ライラックやシャーベットグリーンなど、淡いトーンの涼やかカラーは、おしゃれモチベーションを押し上げるかのようです。
リネンは上質素材を用いていて、原料や加工に関する説明も用意されていました。素肌への心地よいタッチが持ち味だけに、品質がしっかり吟味されているようです。リネンアイテムの定番的なシャツは普段使いしやすそうな仕上がり。「The Art of Everyday Life」の代名詞とも映るEveryday仕様です。
来春夏に盛り上がりそうなトレンドに、身体性を押し出す「ポディポジティブ」があります。自分の体を肯定的にとらえ、程よい素肌見せも織り込んでいく着こなしです。ナチュラルな風合いが印象的なキャミソールドレスは新トレンドになじみやすいアイテムでしょう。
着心地を重んじる意識が一段と強まってきました。体を締め付けないニットはエッセンシャル素材に浮上。ユニクロのコレクションでもボディフレンドリーなウエアがそろっていました。今の気分を映して、例年にも増して、弾むようなカラートーンが多くなっています。
メンズのシャツにもパステルトーンが用意されています。今は性別に関係なく、アイテムを選ぶ消費者が増えているので、女性がゆったりめに着る選択肢もありそうです。
古着・ヴィンテージのブームを背景に、90年代調やグランジテイストの装いが見直されています。今回のニットトップスやチェック柄シャツにも、そういった懐かしげな風情が感じられました。
デニムも再評価が進んでいる素材です。これまではストリートやユースの印象が強かったのですが、大人が日常を楽しむアイテムとして、新たなポジションが提案されています。ソフトなシルエットを描き出す着方がデニムウエアの出番を増やしてくれそうです。
紫外線を90%もカットしてもらえるUVプロテクションは春夏に頼もしい機能です。新シーズンに向けては、代表的な帽子や日傘に加え、シャツワンピースやライトアウターなども用意され、いっそう厚みを増しました。
頑張りすぎないアウトドアの人気が続いています。軽快でスポーティーな装いは音楽フェスティバルやバーベキューパーティなどにも好都合。日焼けや虫刺されをブロックしながら、のどかな気持ちで過ごしやすいアイテムが屋外プレジャーを応援します。カジュアルアウターとして定番人気のパーカに、耐久撥水機能がプラスされました。春先の肌寒さには、インでもアウトでも着用できる三層の中綿ベストも登場。
あでやかな色・柄をあしらったウエアが増えたのは、人と会える機会が増えてきつつあることを物語っています。
ボディに自然となじむウエアは「セカンドスキン(第2の肌)」と呼ばれ、おしゃれのキーアイテムに浮上してきました。控えめの透け感を帯びたタートルネックはソフトな肌触りと豊かなストレッチ性を兼ね備えていて、着る人に寄り添うかのようです。
展示スペースには横断歩道風のペイントが施されていて、街歩き気分を演出していました。緑もたくさん配されて、着て行けるシーンを連想させる効果大です。
解放的なムードのファッションでも、ルーズすぎないさじ加減が程よい節度を保っています。細いストライプ柄や、小さめのドット(水玉)模様が静かな品格を添えています。グローバルトレンドでも提案されているモチーフです。
ネクタイを締める「タイドアップ」は、スタイリング面でのネクストトレンド。スーツの印象が強い装いですが、あえてカジュアル寄りの着こなしに持ち込むのがこれからのアレンジです。
着丈が長めのロングジレはオールシーズンで重宝するエッセンシャルなアイテムです。今回のジレは正面のVゾーンが深くて、リラクシングに着やすいタイプ。レイヤードに組み込みやすい、このようなシーズンレス系のウエアが多彩に用意されていたのも今回の傾向です。
年を追うごとに暑さがきつくなる中、接触冷感のTシャツは頼りになります。今回は「エアリズム」の展示で、ストレッチ性や消臭効果、快適さなどの機能性を強調。長く続く暑さしのぎがファッションの重要テーマになってきたことを感じさせました。シルク素材を加えて、上質感を高めたアイテムも登場しています。
■UNIQLO and JW ANDERSON(ユニクロ アンド ジェイ ダブリュー アンダーソン)
英国出身のデザイナー、ジョナサン・アンダーソン氏と組んだコレクションは、トラッドが新たな表情をまとう今の流れにマッチしています。今回のコレクションでは、世界的にリバイバルしつつあるブレザーをお披露目。メタリックボタンには「JW」のイニシャルロゴが浮き彫りされています。ノースリーブのシャツワンピースは清楚で涼やか。
アウトドア気分の高まりを意識して、会場にはカヤックのボートまで置かれていました。ラガーシャツ風ワンピースはチアフルなムード。ブラウスとミニスカートのセットアップも清潔感とコケットが同居するようなたたずまいです。
■Uniqlo U(ユニクロ ユー)
アーティスティックディレクターのクリストフ・ルメール氏とそのデザインチームが手掛ける「Uniqlo U」は息の長いプロジェクト。今回はトレンチライクなライトコートや、レギンス風ボトムスのセットアップなどを提案。ニットベストやバケットハットなども軽やかさとオーセンティック感を響き合わせています。
■UNIQLO / INES DE LA FRESSANGE(ユニクロ / イネス・ド・ラ・フレサンジュ)
フレンチシックのアイコン的存在、イネス・ド・ラ・フレサンジュ氏と共にユニクロが創っている「UNIQLO / INES DE LA FRESSANGE」は、パリ郊外へのピクニックに誘うかのような、華やぎと伸びやかさが同居する装いをそろえました。赤を効かせたチェック柄がノスタルジックファニーなカラフル柄を散らしたブラウスには、白のタックプリーツ・スカートを引き合わせ、首にはチェック柄スカーフを添えています。
■UT
TシャツのUTではメッセージを打ち出したデザインを発表しました。シンプルな文字メッセージで、グラフィックTシャツの原点に立ち返るような試み。ヴィンテージ感を宿したタイプもそろっています。新クリエイティブ・ディレクターにアーティストの河村康輔氏を迎え、ヴィンテージTシャツの持つ魅力と現代のストリートカルチャーをコラージュすることで生み出されたコレクションです。
着る人に寄り添うスタンスが一段とはっきり示された今回のコレクションは、ファッションの風向きが変わり始めたことを印象づけました。ポジティブな装いを取り戻したいというおしゃれマインドにも伴走してもらえる提案です。ブランドの立ち位置も、基本軸の「ベーシック」から、必要不可欠の「エッセンシャル」に進化するかのよう。まだ終わりが見えてはいないものの、3年間の日々を乗り越えて、先へ進みつつある今、私たちの背中を押してくれるようでもあり、これらのアイテムをまとえる春夏シーズンが待ち遠しくなります。