宮田 理江

2020 29 Dec

『アパレルの終焉と再生』(小島健輔著)を読んで 環境の変化に対応するしなやかさ

多くのメディアで連載や寄稿を続けておいでで、たくさんの著書を出されている小島健輔先生(小島ファッションマーケティング代表取締役)の新しい著書『アパレルの終焉と再生』(朝日新聞出版)を拝読しました。アパレル業界を長くウォッチしてきたプロならではの、業界慣習やビジネスマインドを見通したうえでの「愛のむち」を感じました。

アパレル業界に関しては、コロナ禍が深刻化して以降、経営破綻や人員整理が相次ぎ、「コロナに負けた」的な報道がしばしばメディア上でみられます。しかし、小島氏が以前から指摘してきた通り、課題はコロナ禍の以前からあり、コロナ禍は最後の引き金を引いたのにすぎません。

つまり、仮に「アフターコロナ」状況が訪れても、アパレル業界の苦境はさほど変わらないと言えるということでしょう。本書はその理由を複数の側面から、リアルに明示しています。

たとえば、「大量生産」「消費者不在」「前例踏襲」「オーバーストア」などがアパレル業界の衰退を招いた主な原因と見えます。いずれも著者がかねて改善を求めてきた事柄です。本書はその他の課題も幅広く取り上げています。著者のたび重なる提案にもかかわらず、今の状況に至ったことへのもどかしさも本書ではうかがえます。

本書で指摘される、アパレル業界の様々な判断ミスや思惑違いを振り返ると、「ビジネス環境は変化する」という、当たり前のことに対応できなかったことが失敗の根っこにあったように思えます。著者がそのあたりに斬り込んでいく筆致は鮮やかです。商業施設のあり方に関する分析と見通しには、長年の知見が注ぎ込まれています。

販売スタッフを大事にしているのも、売り場のリアルを知る著者ならではの愛情を感じさせます。「店舗運営の多能専門職」という提案は、SNSや動画を通したマーケティングが当たり前になりつつある今、重要なアドバイスと映ります。顧客に寄り添う販売がこれまで以上に求められる中、売り場に立つ「人」はやはり大切な存在になっていってほしいと思います。

アパレル業界のミステイクは決して「他人事」ではありません。「アパレル」を自分が身を置く業界に置き換えて、多くの人にとって読む価値がある本だと感じました。

『アパレルの終焉と再生』
https://www.amazon.co.jp/%E3%82%A2%E3%83%91%E3%83%AC%E3%83%AB%E3%81%AE%E7%B5%82%E7%84%89%E3%81%A8%E5%86%8D%E7%94%9F-%E6%9C%9D%E6%97%A5%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E5%B0%8F%E5%B3%B6-%E5%81%A5%E8%BC%94/dp/4022951060

小島健輔氏 公式サイト
http://www.fcn.co.jp/

 

Written By Rie Miyata

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