栗田 亮

2018 29 Jan

モッズって何ですか?

今回も、ファッション専門学校の講師をしていたころの思い出話しです。

その年の冬は「モッズコート」を着ている生徒が多く、生徒たちは、「SEKAI NO OWARIのせいでモッズコートが流行った」とか「セカオワコート」などと言っていました。そのうち「先生、モッズで何ですか?」という話になり、最近の若者は「モッズコート」は知っていても、モッズそのもの知らないという事実が判明しました。とはいえ、こちらもモッズについては薄ぼんやりとしかしか知らないので、「次回までに調べてきましょう」という話になりました。

モッズについてサイトで調べてみと、

モッズとは1950年代後半から1960年代中頃にかけて流行した音楽やファッションをベースとしたライフスタイル、およびその支持者を指す。

1951年にアメリカ軍に採用されたミリタリーパーカー(M-51)は、モッズの人々に愛用され、「モッズコート」(「モッズパーカ」とも呼ぶ)として知られている。(ウィキペディア)

細身の三つボタンスーツ、ボタンダウンシャツにナローネクタイを身に着け、ミリタリーパーカー(M-51)を羽織るのがモッズファッションの基本です。1分で分かる「モッズ」

などの情報を得ることができました。

また、英語サイトに当ってみると、

Mods:

Significant elements of the mod subculture include fashion (often tailor-made suits); music (including soul, ska, and R&B); and motor scooters (usually Lambretta or Vespa). The original mod scene was associated with amphetamine-fueled all-night dancing at clubs.

モッズの特徴:

・ファッション(大抵はテーラードスーツ、)

・音楽(ソウル、スカ、R&B)

・スクーター(ランブレッタかベスパ)

・アンフェタミン(当時は合法だった覚醒剤)

・クラブなどで一晩中踊り明かす

モッズの定義:

Paul Jobling and David Crowley called the mod subculture a "fashion-obsessed and hedonistic cult of the hyper-cool" young adults who lived in metropolitan London or the new towns of the south.

「ロンドン郊外や南部の新興住宅地に住む、ファッションオタクで過度なカッコよさを追求する快楽主義者の排他的集団」(イギリス作家Paul JoblingとDavid Crowleyによる)

ブームの背景:

モッズは、ロンドンや部の新興住宅地に住む若者で、アルバイト代を家計に入れず自分のためだけに使うことができるようになった最初の世代でした。あり金を全てオシャレのためにつぎ込み、そんな彼らを目当てにロンドンのカーナビー・ストリートやキングスロードに若者向けショップができたのです。

Mods adopted new Italian and French styles in part as a reaction to the rural and small-town rockers, with their 1950s-style leather motorcycle clothes and American greaser look.

モッズは、田舎や郊外の「ロッカーズ」と呼ばれる50年代風革ジャンバイクスタイルやアメリカ風リーゼントスタイルへの反発もあり、イタリアやフランスの新しいスタイルを取り入れた。

Male mods adopted a smooth, sophisticated look that included tailor-made suits with narrow lapels (sometimes made of mohair), thin ties, button-down collar shirts, wool or cashmere jumpers (crewneck or V-neck), Chelsea or Beatle boots, loafers, Clarks desert boots, bowling shoes, and hairstyles that imitated the look of French Nouvelle Vague film actors.

男子は洗練されたスタイルを取り入れた。例えば、ナローラペル(素材はモヘアなど)のテイラーメードスーツに、細いタイ、ボタンダウンシャツ、ウール・カシミヤのセーター(クルーネックかVネックに限る)、チェルシーブーツ・ローファー、クラークスのデザートブーツを合わせた。髪型はフランスのヌーベルバーグ映画の俳優を意識した。

Mods chose scooters over motorbikes partly because they were a symbol of Italian style and because their body panels concealed moving parts and made them less likely to stain clothes with oil or road dust. Many mods wore military parkas while driving scooters in order to keep their clothes clean.

オートバイではなくスクーターが好まれた。なぜならそれはイタリアンスタイルのシンボルであり、また駆動部がパネルで覆われているので、大切な服を油や泥で汚す心配が減ったからだ。さらに服を汚れから守るために、スクーターを運転する際はミリタリーパーカーを羽織るのがお約束だった。

などの情報を得ることができました。

 

Pinterestのmods fashion 60sというボードがあり、ここの写真群を見ると、モッズの雰囲気がわかります。

ここで気がつくのはミリタリーコートの位置づけです。

日本では、モッズファッションの基本アイテムという説明がされていますが、英語サイトを見る限り、モッズにとってミリタリーコートは、例えばパーティー会場までスクーターで移動する際に、大切ファッションをがっちり守るために羽織っている、安くて丈夫な実用品の位置づけのようなのです。こだわり抜いて仕立てたスーツの上に、安物のミリタリーコートを羽織るのは、スーツを引き立たせる演出のようなもので、そこが粋なのだと思います。つまり、モッズファッションはミリタリーコート抜きでも成立する訳です。

こうした感覚からすれば、今の若者が、カジュアルウェアの上にミリタリーコートをファッションのつもりで着ている時点で、お前はすでにモッズではない、ということになりそうです。

ではなぜ、ミリタリーコートがモッズファッションの基本アイテムだという解釈が成立したのでしょうか。それは、「さらば青春の光」という映画の影響ではないかと思います。モッズ関連のサイトでも、たいてい言及されています。

この映画は1979年、モッズの流行りが起きてからおよそ20年後のモッズ・リバイバルの時代に作られた映画です。映画自体は、モッズにのめり込みすぎたため、自分の大切なもの(家族、仕事、友人、恋人、愛車、憧れの人)を次々と失う、切ない青年の話ですが、映画の中でミリタリーコートは、モッズたちがスクーターでの移動する時や、革ジャンを着た「ロッカーズ」との対比で象徴的アイテムとして使われています。モッズファッションの基本アイテムのようにも見えます。しかしよく見ると、モッズたちはパーティー会場など勝負どころではミリタリーコートは脱いでいます。なにしろ高いスーツを見せびらかさなくてはいけませんから。

おそらく、ミリタリーコートやそのレプリカにモッズコートと名前をつけたのは日本のアパレル関係者だと思います。なぜなら、ネットで"mods coat" や"mods parka"で検索してみても、上がってくるのはユニクロを始めとした日本のアパレルのサイトがほとんどだからです。(一部、”mods coat”のネーミングで、イタリアスタイルの細身のコートを売っているサイトがありますが、この海外のサイトの方が、本来のモッズのファッションセンスに近いのだと思います。)

名付け親は、映画「さらば青春の光」からイメージを得たのかもしれません。このネーミングは、ミリタリーコート(とそのレプリカ)をファッションアイテムにするために大いに役に立ったといえます。「機能」に「意味」を付加し、脇役を主役に押し上げたようなものです。名付け親はなかなかの知恵者ですね。

以上のことから、日本で売られているモッズコート(パーカー)は、60代のモッズ・カルチャーから派生したものですが、本来のモッズファッションからすれば基本アイテムとは言い難く、またSEKAI NO OWARIとモッズは関係がない、ということがその時の結論となりました。

 

まとめ:モッズってなんですか?

モッズとは

・1950年代後半から1960年代中頃にかけて流行した音楽やファッションのライフスタイル。

・ロンドン郊外の労働者階級の若者を中心とした都市型。

・ファッションオタクで稼いだ金を服につぎ込む。

・ファッション→(イタリア風細身のテーラードスーツを仕立てる)

・音楽→(ソウル、スカ、R&B)

・アンフェタミン→(当時合法だった覚醒剤、ドラッグ)

・クラブやハウス・パーティで朝まで踊る

・スクーター→(移動はスーツを汚さないイタリア製のランブレッタかベスパ )

・ミリタリーコート→(米軍放出品、スクーターでの移動時にスーツを守り、スーツを際立たせる)

・「ロッカーズ」(50年代風オートバイ、革ジャン、リーゼント)と対立。

モッズの子供世代

・何度かのモッズ・リバイバルブーム(映画「さらば青春の光」の影響大)

・ミリタリーコート(レプリカ)にモッズコート(パーカー)のネーミング

モッズの孫世代

・モッズ・カルチャー衰退。

・脇役のモッズコート(パーカー)、ファッションアイテムとして活躍中

(ネーミングの巧みさ・ただし日本中心で本来のモッズファッションとは異なる)

 

次回のテーマは、「ビートルズはモッズだったの?」です。

 

では、今日はここまで

(キンコンカン)