栗田 亮
小島健輔氏の「店は生き残れるか」を読みました
小島健輔氏の最新作「店は生き残れるか」を読みました。
今日は、その感想をお話します。
本書は、EC(電子商取引)の急拡大の中で、どうやれば既存の店舗販売が生き残れるのか、をテーマにしています。
「小売業の近代史を振り返れば店舗小売業が主役であったのは直近の1世紀にも満たず、ほんの半世紀前までは行商やご用聞きもまだ一定の役割を果たしていたし、店舗小売業の黎明期には今日のECブームに匹敵するような通信販売ブームがあった。店舗小売業の時代を開いた商店街もリードサイド銀座やSCに取って代わられ、そのSCさえECに追い詰められている。」
という歴史観から説き起こし、さまざまなデータを駆使した分析から、
「ショールームストア」時代の到来を予見しています。
特に印象に残ったのは、
「AI(人工知能)接客が販売員不足を解消する」
という提案です。
「販売員さんの声がけには戸惑うことが多い。一番多いのは『なにかお探しですか』、『サイズをお出ししましょうか』だが、こちらがどんな移行で購買プロセスをどう進めようとしているのか掴んで声がけしてくるわけではないから、大半の場合は戸惑って購買プロセスを中断してしまう。」
という、多くの人が店舗で経験するであろう接客の問題点を指摘し、
「『声掛け』段階をAIに任せて販売員のアプローチリスクを回避し、接客を効率化する」
ことを提案しています。
そして、販売員不足の背景には、
「報酬の低さや立ちっ放しの長時間勤務などさまざまな要因が指摘されるが、アプローチが苦手な性格の人は初めから採用対象にしていないことも大きいのではないか。」
と指摘しています。
たしかに「販売の成否は接客トークより的確なニーズ掌握と商品知識、コーティネート提案やフィッティングスキルで」決まりますから、AIを使ったアプローチ支援が一般化すれば、「服」が好きなら「接客アプローチ」が苦手な人でも販売員を目指せることになります。
その例として「ショールームストア」の先駆けとなった、アップルストアが挙げられています。
ご存知のとおり、アップルストア内には、ジーニアスバーと呼ばれるサポートカウンターがあり、顧客のトラブルを、ジーニアスたちが、たいていの問題ならその場で解決してくれます。
私が以前、アップルストア銀座店に行った時、エレベーターに乗り合わせた大阪弁の女性二人組が
「ジーニアスバーって何?」
「頭のいいGAPの店員(笑)」
という会話をしていたのを思い出します。
たしかに、自社の従業員を「ジーニアス(=天才)」と呼ぶセンスは並大抵ではないと思いますが、アップルストアの中にジーニアスバーを作るという構想に、創業者のスティーブ・ジョブズは当初は否定的だったそうです。
(GIXMODEより)
「ジョブズ氏、Apple StoreのGenius Bar計画を毛嫌いしていた!」によると、アップルストアの構想を手がけたのは大手小売店ターゲット副社長だったジョンソン氏で、アップルが直営店ビジネスをするべき理由、どのような店舗であるべきか等を10ページにわたる論文にまとめ上げて提案。
その時のジョブズの反応は
「非常にばかげている!絶対にうまくいくわけがない!」
でした。その理由は、
「いいか、ロン。君のアイディアは正しいかもしれない。しかし、現実とは大きな隔たりがある。私はテクノロジーに詳しくて、人との接し方も心得ている人間に会ったことがない。やつらは全員ギーク(オタク)だ。『ギーク・バー』とでも名付ければいい!」
というものだったそうです。
しかし、現在ジーニアスバーは、アイパッドを使ったサポートシステムなどを駆使して、アップルストアには無くてはならない存在として機能しています。
この、「テクノロジー」を「服」に置き換えても、事情は同じだと思います。
お客様がわざわざ店舗に足を運び接客を受ける理由は、服のギーク(オタク)の専門的な意見を聞きたいからであり、ネット検索すれば容易に得られるような一般的な接客トークではないからです。
一方で、近年、デベロッパー(商業施設)等が主催する接客ロールプレーイングのコンテストが隆盛を極めています。
これは、(一般のお客様の目に触れる機会は少ないのですが)テアント販売員のスキルとモチベーションの向上を目的に行われる模擬接客大会で、全国で何段階かの予選を行い、億単位の費用をかけて実施されている大イベントです。
ECという黒船到来に対する、商業施設側の対策という位置づけから、年々規模が拡大しています。
しかし、このコンテストには大きな問題点があります。それはテナントの販売員が業種、業態を横断して参加するので、販売員の持つ商品知識が審査の対象になり得ないことです。
結果、コンテスト上位者には共通した特徴が見出されることになります。
それは、
(1)見た目が良い(若い、美人、イケメン、個性派)
(2)大舞台の上でも物怖じしない(人前で演技力を発揮できる)
(3)切り返しがうまい(頭の回転が早い)
(4)タイミングよく「決め台詞」を言える(誰もが分かることが大事)
というものです。
私は、これらの特徴を持つ人は「販売員」より「劇団員」に向いていると思います。
そしてこの「劇団員」型の販売員は、実際の売り場では活躍しないことが多いのです。なぜなら(小島氏の体験談にあるように)、お客さんは紋切り型の接客トークではなく、自分の課題の解決を求めているからです。
台詞を上手に言えても商品は売れません。
今日の、接客ロールプレーイングコンテストの隆盛を見ていると、黒船が到来した当時の江戸の町で、剣道道場が大賑わいしたという逸話を思い出します。
後世、時代の変わり目に起こった「椿事」として、取り上げられなければよいのですが。
さて、小島健輔氏の「店は生き残れるか」の提案を、「戦略の5条件」を使って整理してみました。
「ショールームストア戦略」
1.目的(戦略目標)
ECが興隆する中での、リアル店舗の生き残りと再活性化戦略
2.期間
今後10年から20年程度?
ただし、異業種の参入により加速度的に早まる可能性があるのでは?
3.資源(戦闘力)
AI、ECの積極活用による店舗、販売員、物流の再構築
4.思考法
店舗の「ショールームストア」化
店を「アップルストア」型・販売員を「ジーニアス」型に転換することにより、
(1)サンプル展示、コンサルティング接客による買上率・客単価向上、試着待ちストレスの低減
(2)マテハン業務(搬入・棚入れ・陳列整理・在庫探し)の大幅低減
(3)販売員の労働環境の向上
(4)販売在庫のディストリビューション・センター集中による物流の効率化
(5)会社組織全体の簡素化・効率化
(6)店舗家賃比率、人件費比率、店舗物流費の激減による、収益の改善を図る
5.代替案
ECでは実現できないリアル店舗ならではの魅力を徹底する
(1)大型店舗でのボリューム陳列によるインパクトの訴求
(2)行列・繁忙の演出
(3)販売員による、汗と感動の演出
結果、
店舗は、「ボリュームストア」か「ショールームストア」、
販売員は、「劇団員」型か「ジーニアス」型
への二極化が進むのではないか。
以上。
(あくまでも私見による整理です。ご意見賜われれば幸いです。)
きょうはここまで。
(キンコンカン)