久保 雅裕

2017 03 Dec

共に生きた時を確かめ合う最高のロングバケーション

© 2017 Indiana Production S.P.A.

ベネチア国際映画祭Leoncino d'Oro Agiscuola」受賞、トロント国際映画祭正式出品ヘレン・ミレンドナルド・サザーランドというアカデミー賞俳優共演で贈る最高のロードムービー!」という触れ込みの映画『ロング,ロングバケーション(原題:THE LEISURE SEEKER/ザ・レジャー・シーカー)が来年公開される。

筆者はどちらかというとハリウッド映画より、ヨーロッパやアジアなどのマイナーな所謂単館系映画が好きだ。それは勧善懲悪でなく、人間臭さや人間の弱みみたいな部分まで活写し、そして観る人自身に答えを含めて問い掛ける作品が多いからだ。小説を読めば、知らずに一つの人生ドラマを疑似体験する。それは目から入ってくる情報でないだけに個々人の持つ知識と想像力の範囲ではあるが、その中で無限に広がる世界が繰り広げられる。一方、映像作品は、その世界を知らなくても、容易に無知の領域に連れて行ってくれて、新しい知識と画像を瞬時に脳内に放り込んでくれる。その点では、画期的な人生二次体験装置なのだが、答えが用意されているとそこで思考がストップして、気が付けば何年か後にはストーリーすら思い起こせなくなっている。もっとも筆者の記憶装置が衰えていることは否めないが。

閑話休題。そういう点で、この映画はアメリカで撮られてはいるのだが、歴としたイタリア映画なのだ。監督は『歓びのトスカーナ』『人間の値打ち』パオロ・ヴィルズィ。アメリカでの映画撮影のオファーがあったが断り続ける中、マイケル・ザドオリアンの小説に目が留まり、そのストーリーに惹かれる。だが、それでも「サザーランドとミレンが出演を了承したら受ける」と難しい注文を出したが、これが見事二人の快諾を得て進行することになったという。

サザーランド演じる夫・ジョンは認知症で、ミレン演じる妻・エラは末期がんという老夫婦が冥土の土産にボストンからフロリダまで、レジャーシーカー号という古いキャンピングカーで旅をするという話。なので原題はそのキャンピングカーの名前、ザ・レジャーシーカー。夫がずっと憧れていたヘミングウェイの住んでいた家フロリダキーズのキーウエストを目指すが、その旅の中でお互いの過去を回顧しながら、時には寄り添い、時にはぶつかり合って二人の共に生きてきた時間を確かめ合う。そして最期を迎える二人の、いや一人の決断にオーディエンスは何を思うのか。その問い掛けが、アメリカ東海岸で撮影されてが、監督ヨーロッパらしいアティテュードを感じられる

2018126よりTOHOシネマズ 日本橋他全国順次ロードショー