久保 雅裕
53年の時を経て蘇る奇跡のストーリー『男と女 人生最良の日々』
© 2019 Les Films 13 - Davis Films - France 2 Cinéma
1966年、世界中で賞賛され、クロード・ルルーシュ監督のそれまでの人生をも大きく変えた恋愛映画の金字塔『男と女』。ノルマンディーの寄宿舎に息子を預ける著名なレーシングドライバー、ジャン=ルイ・トランティニャンと同じ寄宿舎に娘を預ける映画の記録係をしているアンヌ役のアヌーク・エーメの恋物語だった。二人とも役名が実名となっていたのも新鮮だった。そして男女の奥底に秘めるプラトニックな感情を、ルルーシュは主役のアンヌによって巧みに表現した。死別した夫が忘れられず、新しい恋に踏み出せない女性。普段は強いイメージのパリジェンヌが、これほどまでに一途で可愛らしさを秘めている事に驚いた記憶がある。
その20年後、1986年に公開された『男と女Ⅱ』では、人間として最も熟した年齢の男と女の再会により、新たなふたりの展開が繰り広げられた。
そして今、『男と女』から53年の時を経て、ルルーシュはこのストーリーの結末に臨んだ。本作『男と女 人生最良の日々』(原題:Les plus belles années d'une vie)がそれだ。
老人養護施設で余生を送っている元カーレーサーの男、ジャン=ルイは過去の記憶を失い始め、そんな父親を心配した息子のアントワーヌは、あることを決意した。父親が長年忘れることができず、思いを馳せてきた女性、アンヌを探してふたりの再会を実現すること。ある日、小さなお店を経営するアンヌの居場所を突き止め、ジャン・ルイの近況を話し、再会が実現することになる。アンヌがジャン=ルイの施設を訪れるのだ。
ジャン=ルイは最初のうち、アンヌを見ても誰だか分からなかったが、徐々に記憶が蘇ってくる。アンヌが髪をかき上げる何気ない仕草も過去を想起させた。
ジャン=ルイとの会話の中で、いかに自分が愛されていたかを知るアンヌは、彼を連れて思い出の地、ドービルへと向かう。『男と女』のかつての回想シーンと重ねて新たな時を刻んでいく。
その回想場面の巧みな挿入は、ルルーシュならではのテクニックと言えるだろう。
そして何より53年後に、それぞれの息子や娘も含め同じキャストで出演し、さらに映画の中でも大きな役割を成す音楽も1作目の楽曲の数々に加え、同じくフランシス・レイが新たに2曲追加し、本作を完成させたことは奇跡と言っても過言ではない。2018年にこの世を去ったフランシス・レイにとっては最後の作品となってしまった。
ふたりの思いが叶わず1~2作目とも、結局結ばれなかった理由を本作品で垣間見た。それは、アンヌが発した「クルマは2CVしか乗ったことがない」という何気ないセリフの中に、先立たれた夫をいつまでも思い続ける一途な性格であること。翻って多くの女性と浮世を流した移り気なジャン=ルイ。「奥底にある気持ちは同じでもその性格の違いに、恐らくはアンヌが踏み出せなかったのではないだろうか」と勝手に咀嚼して納得することで、自分の中でもこのふたりのプラトニックなラブストーリーは完結した。
ルルーシュの人生そのものである『男と女』の長い旅は、このように最高の集大成として穏やかに幕が下りたのではないだろうか。
1作目を観た人は、懐かしさを感じながら楽しめるが、観たことのない人でも、時折出てくる回想シーンに思いを巡らせ、その後に1作目を観るのというのも、また違った楽しみ方が出来るかもしれない。
2020年1月31日よりTOHOシネマズ シャンテ、Bunkamuraル・シネマほか全国ロードショー。