久保 雅裕

2019 24 Feb

池上彰さんが字幕監修、現代にも警鐘鳴らす『記者たち~衝撃と畏怖の真実~』

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トランプによって「フェイクニュース」呼ばわりされる米国のマスコミ。それに対して果敢に会見場で挑戦する記者たちの姿を見ることもしばしばある。大統領の会見から締め出されたCNN記者の記憶もまだ新しい。

しかし、そのわずか17年前、ブッシュ大統領によるイラク開戦前夜を迎えていた米国は、まさに大政翼賛会的状況に陥っていた時期だった。「イラクが大量破壊兵器を持っている」との確証の無い情報に踊らされ、いや、むしろ「開戦ありき」で、いわばデッチ上げが口実化されて、戦争へと向かっていった。まるで戦前の日本のようだ。

映画『記者たち〜衝撃と畏怖の真実~』は、この時期に31の地方紙を傘下に持つ新聞社、ナイト・リッダー社・ワシントン支局の記者たちが「イラクには大量破壊兵器が存在するとの確証が取れない」と確信し、その裏を綿密に取りながら、報道しようと試みた実話から構成されたドラマだ。ちなみにサブタイトルは「イラク侵攻」の作戦名から取っている。

さまざまな形で政府中枢に接触を試みるが、機密情報だけに誰しも口が重い。だが、あってはならない「デッチ上げ情報による開戦」などという事に対する憤りや良心が口を開かせる。しかし、世論が開戦一色となった状況下では傘下の地方紙すらナイト・リッダーの配信記事掲載を拒否する事態に。まさに大政翼賛会化だ。

たった17年前の、もはや民主主義が成熟したと思われていた時代の先進国で、このような事が起こっていようとは。「ナインイレブン(9.11)」の衝撃、ビンラディンの犯行と特定、それを支えるブッシュ曰く「悪の枢軸」、「ならばイラクを叩け」と、まるで二者択一を迫るような単純な図式で、簡単に大衆が扇動されてしまう恐ろしさを見せつけられる。国連決議もできず、フランスなどの反対に合い、結果、単独主義で開戦へと突き進む米国。今の米国にも同じ事を感じるのは筆者だけではないだろう。

さらに言うなら、イラク開戦の際に、フランスなどが「大量破壊兵器の存在に確信が持てない」と反対の声を上げたにも関わらず、日本の小泉首相は速攻で支持を表明した。このような際立った違いは、今の安倍首相にも言えることだ。「米国のイエスマン=日本の自民党政権」の構図は変わっていない。それだけにこの映画が、何に対して警鐘を鳴らしているかをよく観てほしいと思う。昔話では済まされない。

監督とワシントン支局長役をこなしたのは『スタンド・バイ・ミー』の監督としても知られるロブ・ライナー、字幕監修は池上彰さんだから、話題性も十分。3月29日からTOHOシネマズシャンテほか全国公開。平和あってこそのファッション。Don’t miss it! 見逃すな!