久保 雅裕

2018 16 Jul

レアなストーリーとモノを届ける醍醐味

20年ほど前のこと。コインブラの友人にディナーに招待され訪れたポルトガル中部のパレスホテル「ブサコ」を昨夏、再訪し宿泊した。20年前に飲んだ同ホテルオリジナルのワインが入たく美味で忘れられないものだったからだ。コクがあり、酸味が少なく、渋みが適度で好みのタイプだったのを覚えている。初回は冬の遅めの時間だったため、高い天井のホールでの会食だったが、今回は夏という事もあり、明るい空を見ながら庭園を眺められるテラス席で2007年物をチョイスして、堪能した。

コインブラといえば、ポルトガル最古の大学があり、その男子学生たちの歌う「コインブラのファド」で有名だ。ファドはポルトガルの民謡で「サウダーデ(サウダージ)」と言われる日本語だと「郷愁・哀愁」に近い感情を表現した音楽だと言われている。ただ正確には訳せないというのが定説だ。コインブラのファドは男性が女性に向けて歌う哀感たっぷりの歌だけあって、一般的に女性の歌うファドとは趣が違う。

さて、そのブサコ専用のワインが原産地呼称では「バイラーダ」と呼ばれる地域のワインだと聞いていたので、このほど白金の八芳園で開かれたポルトガルワインの試飲会へと出かけて探してみることにした。しかし、ほとんど扱いがない。覚悟はしていたのだが、60近くある出展者の中で2社しか扱いがなく、しかもほんの一部で、「今回は持ってきてない」との答え。やっと試飲できたのが、たったの1ワイナリーだけだった。レアなのは分かっていたのだが、これほどまでとは・・・。

コインブラのファド、バイラーダのワイン。どちらもレアではあるが、求める人たちが確実に居る。ピンポイントではあるが、ITを駆使すればリーチできる人たちの数は、それなりの塊になるのではなかろうか。知的欲求と購買意欲を掻き立てるストーリーや背景を持ったピンポイントなものは、まだまだ世界中にたくさんある。見つけ出して、発信し、届ける楽しさと達成感は比類なきものとなる。そんな商いを考えてみては、いかがだろう?