久保 雅裕

2018 01 Dec

段ボールのアップサイクルから見える未来 映画『旅するダンボール』

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サスティナブルという言葉が言われ始めて久しい。地球温暖化とともに最近富に話題となっているマイクロプラスチック問題も話題沸騰。ストローをプラスチックから紙製に変えるコーヒーチェーンやレジ袋の有料化など身近なところから少しでも変えていこうという試みは、とても大切な一歩だ。しかし、地球的規模で考えると深刻な貧困地域や発展途上国では、まだまだそういった意識を持つまでの余裕もなく、まずは豊かな或いは人並みの暮らしを得る為に、その部分には目をつぶってしまわざるを得ない状況が厳然として存在している。「先進国で豊かな暮らしを享受している人間に言われる筋合いはない」「あなたがたが豊かになる為に作り出した結果ではないか」と喉元に刃を突き付けられてはぐうの音も出ないというのが我々の本音のところだ。しかし、過ちは過ちとして認め、理性的にこの問題に立ち向かわなければならないのは確かで、市井の人々の小さな行いの積み重ねも間違いなく重要なのだ。

そんな中で、段ボールのビジュアルの面白さやローカル性に惹かれ、美大時代から財布に加工して販売するなど、段ボールに憑りつかれた男、段ボールアーティスト・島津冬樹のドキュメンタリー映画『旅するダンボール』が公開される。世界各地でワークショップを開き、大人から子供まで、段ボールをアップサイクルして財布や名刺入れなどに仕上げる活動を行っている。身近なところで捨てられている物の再利用による「無価値」から「価値」への進化のプロセスを実感することで、アップサイクルやサスティナビリティーへの親近感と気付きをもたらす効果がありそうだ。

本作は彼の学生時代から大手広告代理店時代の先輩、上司、同僚、友人のインタビューなどを交えながら経緯を探るとともに、世界各地で段ボールを探す姿やワークショップの模様も伝え、人となりを描き出していく。そして最も盛り上がるストーリーは、気に入った段ボールの制作者を訪ねていく旅。商業デザインに携わる人々にとっては、そのイラストが商品を引き立てる脇役として機能することが第一義の目標となるが、デザインそのものを評価され、遡って訪ねられたら、どんなに嬉しいことだろうか。人と人を繋ぐデザインの逞しさを感じる場面でもあった。

前段に戻って、こうした市井の人々の活動の一方で、巨大な経済活動の為に犠牲となっている人々や地域、そして環境に目を背け「我が世の春」だけを楽しむかのようなナショナリズムやポピュリズムを支えているミーイズムの広がりに警戒感を覚えるのは筆者だけではないだろう。

『旅するダンボール』は12月7日からYEBISU GARDEN CINEMA、新宿ピカデリーほか全国順次公開予定。予告編はこちら。