久保 雅裕

2021 09 Aug

自分の好きを貫いた先に見える希望

リル・バック

今回は、ダンスと音楽ネタの映画2本を紹介する。


まずは実在のダンサー、リル・バックのドキュメンタリー『リル・バック ストリートから世界へ』
ジャネール・モネイ、マドンナ、ヨーヨー・マとの共演や「ルイヴィトン」「ヴェルサーチ」「シャネル」などとのコラボでも知られ、誰も見たことのない驚異のダンスに目を奪われるドキュメンタリー映画だ。
全米有数の犯罪多発地域で、キング牧師が暗殺された場所としても知られるテネシー州・メンフィス。そんな闘争の街で育ったチャールズ・ライリー(愛称リル・バック)は、メンフィス発祥のストリートダンス「メンフィス・ジューキン」にのめり込んだ。「ダンスが上手くなりたい」。それだけを願った少年は、やがて奨学金を得てクラシックバレエにも挑戦し、ジューキンとバレエを融合させ、名曲「白鳥」(「瀕死の白鳥」)を踊った。
その「白鳥」を世界的チェロ奏者のヨーヨー・マが見て、チャリティー・パーティーにバックを招いて共演する。そこには偶然『マルコヴィッチの穴』『her/世界でひとつの彼女』の映画監督、スパイク・ジョーンズが居合わせた。驚異的なダンスに目を奪われたジョーンズは携帯で撮影し、動画をYou Tubeに投稿。その1本の動画が、リル・バックの運命を変えたのだ。
タフな街に育った少年が唯一無二の世界的なダンサーとなり、メンフィスの子供たちの光になるまでの軌跡を描いた本作は、8月20日よりヒューマントラストシネマ渋谷、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開だ。

ビルド・ア・ガール©MONUMENTAL PICTURES, TANGO PRODUCTIONS, LLC,CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, 2019
続いて1993年、鬱々とした日々を送るイギリスの女子高生、ジョアンナが著名音楽ライターに飛躍する映画『ビルド・ア・ガール』


オアシス、ブラー、プライマル・スクリーム、ハッピー・マンデーズやマニック・ストリート・プリーチャーズといった人気バンドが旋風を巻き起こした90年代前半のUKロックシーンを背景に、原作はキャトリン・モランの半自伝的小説「How to Build a Girl」で、脚本も彼女自身が担当した。
16 歳の高校生、ジョアンナは、貧しくも優しい両親や兄弟に囲まれているが、学校では冴えない子扱い。あふれる表現欲求や自己実現を持てあまして悶々とした日々を送っている。
そんな環境を変えたい彼女は、音楽マニアの兄、クリッシーの勧めで大手音楽情報誌『D&ME』のライターに応募。底なしの想像力と文才が発揮され、単身で大都会ロンドンへ乗り込み、仕事を手に入れることに成功する。さらに大切な髪を赤く染め、奇抜でセクシーなファッションに身を包んだジョアンナはライター「ドリー・ワイルド」へと生まれ変わり、ロックの世界に引き込まれていく。音楽ライターとしてその才能を開花させ人気者となったジョアンナだったが、インタビュー取材で出会ったロック・スターのジョン・カイトに夢中になってしまい、冷静な記事を書けずに大失敗。

ちなみにカイトの甘く切ないメロディアスなライブは必聴↓↓


さて「生き残りたいなら、全て蹴散らせ!」という編集部のアドバイスにより「いい子」を捨て、「嫌われ者」の辛口批評家として再び音楽業界に返り咲く。過激な毒舌記事を書きまくるドリー・ワイルドの人気が爆発し、地位と名声、お金も手に入れるが、彼女はだんだん自分の心を見失っていく。さてさて、ジョアンナのその後は、いかに??
少し先になるが10月22日より新宿武蔵野館ほか全国ロードショー予定。
いずれも「自分の好きに忠実に、それを貫いた先に見えるのが希望」というシンプルだが、忘れがちな法則を想起させてくれる。