武田 尚子

2023 19 Jul

「ヴァカンスは別腹」!

少し時間が経ってしまったが、今月初旬、パリで「CURVE PARIS」という国際展示会が開かれた。リヨン開催時代から長い歴史のあった「MODE CITY」に代わるもので、スイムウエアをはじめ翌年の春夏コレクションを発表する場として、秋冬コレクションを発表する1月の「パリ国際ランジェリー展」と好対照を見せていた。私はこの夏展にも1980年代末期から取材に行き続けていたが、2019年を最後に、コロナによって中断。今回は夏のリアル展としては本格的な復活となったのである。昨年2022年6月に開催され、私も久々に渡航した展示会は、同年1月「パリ国際ランジェリー展」延期としての開催だったので、夏展としては4年ぶりであった。

今回の「CURVE PARIS」への取材を私は早くから断念していた。
ただでさえも航空運賃のかかる夏であるのに加え、昨今の円安と物価高、そしてオリンピックを控えたパリのホテル代急騰と、全く私の手の届かないものになってしまったのだ。大手企業でさえも二の足を踏んでいるのに、明日の生活も危ういフリーランスの身で行けるはずもない。もう一つ、決め手となったのは、今回は例年以上にランジェリーよりスイムウエアが中心になることが予測されたからである。
悲しいことに、日本のスイムウエア市場というのは伝統的に特殊なものがあって、その情報を必要としている人が極端に少ない。スイムウエアの需要が少ない、日焼けを嫌う、そもそも夏のヴァカンスを楽しむ文化がない…
私自身、海の近くに住んでいるし、特に日焼けを忌み嫌うわけではないけれど、どちらかというと夏は体質的に苦手で、スイムウエアを着る機会もほとんどないのである。そういう人は年齢に限らず少なくないのではないかと思う。

ところが、世界的にみると、スイムウエア・リゾートウエア市場はコロナの反動もあってか、活況を見せているようだ。フランスのデータだが、2022年は前年対比、レディスが13.1%、メンズが25.3%も伸びているだという。

主催者提供の会場写真

 

パリ在住の磯部美保さんから送っていただいた今回の展示会レポートには、以下のような興味深いことが書いてあった(写真の1枚目と3枚目の撮影も)。


夏の展示会は『スイムショー』ということを改めて実感しました。ランジェリーはフランス女性の年間支出の12%、一方でスイムは1.6 %にすぎません。それでもスイムは「美味しいマーケット」なんだそうです。それはランジェリーに比べると簡単に作れるから。それから、コロナの反動で、レジャー産業が伸びています。航空運賃の値上げと、飛行機は環境に良くないというイメージが強いのですが、それでも国外に旅行する人もいるし、一方でフランス国内でヴァカンスを過ごす人もいます。ただ場所は変わっても、過ごし方は変わりません。「デザートは別腹」と言いますが、フランス人にとってヴァカンスは「別腹」です。ヴァカンスを楽しまなければ、普段働いている意味がありません。にもかかわらず、会場が賑わっていなかったのはなぜか。まず、あれだけランジェリーブランドが少ないと、ランジェリーブティックは足を向けません。さらに本格的なバーゲンが数日前に始まったばかりでした。一方、水着専門店は7月はかきいれどきです。時期が良くなかった。でもそれだけではないと思います。スイムなら他にも展示会はあるから、Curveにこだわる必要がありません。ランジェリーブティックはもう随分前から苦戦しています。なかなか売れない。展示会主催者は「消費者を惹きつけるには、製品を多様化するべき」と言って、スイムやラウンジウェア、関連商品などのブースを増やしてきました。それでブースの契約が取れれば御の字だったのでしょう。その結果、ランジェリー以外のブランドが入ってくることで相乗効果が生まれれば良かったのですが、スイムの色が濃くなってしまったゆえに、純粋なランジェリーブランドが逃げていってしまいました。傾向分析のセミナーなどで「ランジェリーはすでにランジェリーの枠を超えた」とか「ランジェリー、スイム、ラウンジウェアといった区別はなくなってきている」という話を何回も聞きました。でも、その境を外したら、単なるプレタポルテになってしまいます。やはり、従来の正統派ランジェリーがベースにあることによって、他のセクターとの融合も意味のあるものになると思います。そのためにも、来年一月は、ランジェリーブランドがブースを並べて、ランジェリーブティックがこぞって押しかける活気のある展示会が見たいと強く思いました。


もともと、ヨーロッパ、特にフランスやイタリアは、ランジェリーとスイムウエアが非常に近い関係にある。さらにライフスタイルの変化の中で、アウター(プレタポルテ)との境界も薄れている今だからこそ、やはりランジェリーの存在が重要なのではないかと、私も思うのである。新たな革命が望まれる。