武田 尚子
個人商店、商店街の魅力を再発見
1月中旬に開催された恒例の「パリ国際ランジェリー展」取材を終えて帰国したばかり。この1年の間にも社会のデジタル化がさらに進行した(メトロ回数券のカルネが廃止され、チャージ式NAVIGOが定着したのは典型例)ように、ネット市場の浸透と共に展示会の規模や内容はこの数十年で大きく変化しているが、結論からいうと、人が対面で集う場としての「サロン(展示会)」の意味はやはり大きいと感じた。詳細については3月6日のオンラインセミナーでお伝えしたい。
今回の「2025パリ国際ランジェリー展」の新しい装置として「ザ・ランジェリーショップ」というスペースが登場していた。このネット時代にあえて、セレクト型コンセプトショップの売場提案を小売バイヤーに向けて行ったものだが、実際のところは、パリの街を歩いていてもランジェリーの専門店が本当に少なくなっている。
エタムのような大型チェーンやメーカー直営店は見かけるが、個人商店主の専門店はほとんど見かけない。商店街衰退と連動した廃業の動きであろうが、活気のある通りもなくはない。例えば、今回久しぶりにシェルシェミディ通り(以下、「リズ・シャルメル」直営店写真)などサンジェルマン界隈を歩いてみたが、コロナを経て再び息を吹き返しているのを感じた。オリンピックがカンフル剤になった面もあるだろう。
商店街といえば、今回、非常に印象的だった通りがある。モンパルナス界隈にある「ダゲール(Daguerre)」(最寄り駅は13番線Gaite)。アニエス・ヴァルダが1975年製作したドキュメンタリー映画『ダゲール街の人々』の舞台になったところで、国内ランジェリーブランド「ランジェリーク」(カドリールインターナショナル)の2025春夏シーズンのテーマにもなっている。
アニエス・ヴァルダ好きの私としては、この映画の話を同デザイナーの有馬さんに聞いた後、早速、Amazonで鑑賞した。実は今回、パリで滞在するホテルがこの通りのすぐ近くにあることが判明したからだ。その場所はホテルから数分、最寄り駅に行く途中にあることはすぐ分かった。取材場所への行き帰り、まだ薄暗い中で、この通りにクリスマスのかわいい電飾がついていたからだ。こういった素朴で伝統的な電飾はパリの数か所で見たことがあるが、どこも地域密着の賑わいがあることでは共通している。
いよいよパリ滞在最終日、この通りを駆け足ではあるが散策する機会を得た。想像以上に歩きがいのある通りで、奥の方の半分は果物やチーズなど食料品を扱う専門店が並んでいて、まるでマルシェのようだった。映画に登場した店で現存しているところについては分からなかったが、全体的には庶民的な雰囲気を残しながら、若い世代のセンスのいいカフェや菓子店などもあって、ああ、こういう通りの近くに住みたいなという気にさせた。
40歳前後と思われる若い夫婦が立ち働いている間口の狭いチーズ専門店で足を止め、コンテを購入。笑顔のかわいいサンパティックな奥さんに映画の話をしてみるとすぐに反応がかえってきた。後からその店の袋を見ると「1909」年からと書いてあるので、50年前の映画撮影の時も何代か前の人が営業していたはずだ。
パリに限らず、魅力ある街というのは魅力ある店や商店街があるところであることを再認識した。ランジェリーについても、インターネットは便利だし、たくさんのブランドが集まっている百貨店の売場もいいけれど、やはり専門店は無くなってほしくないのでる。