武田 尚子
「衣服の未来」をパリで見た
1月24日、パリ・オートクチュール・ファッションウィークにおいて、YUIMA NAKAZATOの2019春夏コレクションを拝見する機会があった。YUIMA NAKAZATO(中里唯馬)は、日本から10数年ぶりのオートクチュール公式ゲストデザイナーとして近年発表を行っているブランドだ。
装飾美術館で開催されている「ジャポニズム」展にも、川久保玲や三宅一生と並んで、その作品が紹介されている。
今回のテーマは“LIFE”。「人の人生」と「服の寿命」という二つの意味が込められている。
従来のショー形式の発表ではなく、デザイナー自身のプレゼンテーションと作品の展示というスタイルだった。
コレクションの内容は、年齢や性別、国籍、ライフスタイルの異なる8人の人生の物語と、それぞれが大切にしている物が軸となっている。
物というのは、人生の記憶であり、思い出。この思いは、年を重ねるごとに私自身も実感していることだ。
画家であった夫の絵画をプリント生地にしてまとうある女性の物語
シルクロードを愛した写真家の物語。シルクロードを何度も旅して、各地で集めたテキスタイルを一着のドレスへ(下写真右奥)
日本に移住して藍染め職人になったある男の物語。試行錯誤の末に生まれた残布が融合し、新たな姿に(写真手前)
祖母が結婚した時に着ていたランジェリーが、祖母の思い出と共にウエディングドレスに生まれ変わる。このランジェリーをワコールが提供
父が青春時代を共にした思い出と共に、その若い頃のワードローブを組み合わせ
宝物と一緒にいたい4歳の女の子の物語。お気に入りのぬいぐるみを解体してドレスへ
宇宙飛行士を夢見る9歳の男の子の物語。サイズや好みが変わってすぐに着られなくなる成長期の子供服を何枚も組み合わせて新しい衣服に
あるダンサーの物語。ダンスを始めた頃に着ていた服がステージ衣装へ
これらのコレクションのベースにあるのが、針と糸を一切使用しないYUIMA NAKAZATO独自の生産システム「TYPE-1」。
好みや用途、また体の成長によるサイズ変化にも瞬時にカスタマイズでき、修繕も繰り替えすことができて長期的に衣服を着続けることを可能にしたもので、まさに「サスティナブル」を基本とした次の時代の衣服デザインとなっている。
小さなパーツ(ピース)をスタッズ(鋲)で止めていくという作業は、会場でも実演されていた。
オートクチュールとプレタポルテ(既製服)、さらにはアウター(外側の衣服)とインナー(内側の衣服)という境を優に超え、物づくりのシステムを含めて、「衣服の未来」を標ぼうしていることに深い感銘を覚えた。