武田 尚子
障がいのある人に焦点を当てたビジネスモデル
語弊があるかもしれないが、「フェムテック」「LGBT」に続き、「身体障害者」がインナーウエアの新たなビジネスモデルとして動き始めている。
6月下旬からクラウドファンディングでの販売が始まっているのは、「AonC(エーオンシー)」(代表:井上夏海さん)。
「私が私であるために」「人生における選択肢を一つでも多く」というヴィジョンのもと、障害のある人へのインタビューを重ねることによって、使いやすい機能性とデザイン性を兼ね備えた商品開発を目指している。その製品第一弾として、「The AonC ブラ&ショーツ」をインナーウエアメーカーの㈱MIC(本社:神奈川県厚木市、代表取締役:神崎淳志)と共同開発した。
商品の特長としては、ブラジャーは胸の前で簡単にとめられ、肩ひもがずれにくい設計になっていること。ショーツは両側に付いたループで引き上げやすくなっている。
井上夏美さんは、慶応大学文学部卒業後、外資系コンサルティングファームで働きながら、副業として起業している。この分野に焦点を当てたのは、井上さん自身や周りに障がいのある人がいるという個人的な体験によるものではなく、起業のテーマを方々リサーチしているなかで、日本ではまだ誰も手をつけていないニッチ市場であることを確認したためであるという。
企業勤務を続けながら、一人でこのプロジェクトに当たり、販売までこぎつけているというのは驚異的。新しいことを始めようという若い世代の才覚と行動力には本当に頭が下がる。
インナーウエアという分野が若い起業家の興味の対象になっていること、業界や市場としてみれば新規参入の動きがあることは喜ばしい。未来を感じる。ただ、今回のプロジェクトに関しても、井上さんは多くのメーカーに協力を打診したが、受け入れてくれたのはMICだけだったという。
業界側ももっと新しいことに積極的に挑戦してほしいという思いと同時に、参入する起業家たちも単にマーケティング発想でビジネスの芽を育てるとか、メディアで紹介してもらう人を探すというだけではなく、業界や業種にはそれぞれ長い歴史があることをもっと知ってほしいと、歴史を伝える仕事を標榜している古い人間にとっては複雑な思いもあるのである。
いずれにしても、時代は変わったのだ。
AonC代表の井上夏海さん