武田 尚子
ボンディング新時代に向けて
「2025パリ国際ランジェリー展」の主要テーマを考えてみた時、カギを握っていたのは「ボンディング」ではなかったかと思う。
「ボンディング」、つまり「接着」。従来の縫製の代わりに、接着材で生地を接着結合させて製品を作っていくシームレスの技術を指す。日本でも接着技術のインナーウエアは新しいカテゴリーを生み、トリンプ「sloggy(スロギー)」やワコール「GOCOCi(ゴコチ)」、あるいはユニクロによって、この5~10年の間にすっかり市場に定着している。
今回はボンディング技術を活用した新製品がフランスの有力メーカーで見られが、その動きを裏付けるように素材展(アンテルフィリエール)において、ボンディングメーカー「Press Intimates(プレス・インティメイツ)」の初出展があった。
同ブースで興味深い話をしてくれたのが、ワコールに35年在籍した若代祥世さん。「縫製によるレース物とシンプルな接着、その中間にある新しいカテゴリーの市場をつくっていきたい」と意欲的な姿勢をみせていた。
若代さんは、京都本社のデザイナーから上海、そしてワコールヨーロッパを経て、再び上海にもどって3年。昨年、ワコールを「卒業」してからは、個人会社でODMなどを請け負う傍ら、同社の契約スタッフとしてボンディングの啓蒙と拡大につとめている。
「このハイブリッド市場を拡大させていくことは、消費者にとっても製品メーカーにとっても、またデザイナーにとっても大きなメリットがあると思うのです」
ブラジャーに限らず、レースのトリミングを施したランジェリーからテーラードジャケットまで、用途は幅広い
現社長が16年前に創業。糊の調合など自ら研究を重ねたという
ボンディングのパイオニアである日本のユタックスによると、ボンディングメーカーは中国で飽和状態になってから、いったんさびれたが、コロナ明けの2024年からは乱立状態になっているという。
その中でも、トップを競うのがこの「Press(プレス)」と、かつてユタックスで修業した人が起業した「QYD(キューワイディー)」(同展には出展していない)。製品メーカーについても中国勢が目立つ。
ボンディングブラを軸に成長を続けている中国の製品ブランド「ubras(ユーブラ)」
中国のリーディングカンパニー、AIMERも同社の先端ブランドである「AIMER CHUNG」をヤングデザイナーを集めたエリアで紹介
日本から同素材展への出展企業の中で最古参のユタックス。今回も新しいアイデアが多く紹介されていた
そう革新的なテクノロジーが生まれる時代ではないかもしれないが、下着業界とテクノロジーは切っても切り離せないものがある。テクノロジーに裏付けられたエンジニアリングこそが、未来の下着産業を切り拓く原動力になるのである。そういう意味でも、若代さんのようにテクノロジーとデザイン、テクノロジーと市場を結びつける人の存在が非常に大きい。