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「ヴァレンティノ」がオートクチュールで見せる物質と非物質が交差する世界
「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は2020年7月21日、2020秋冬オートクチュールコレクションを、伊ローマの映画撮影所チネチッタにて発表し、現地からライブストリーミングを行った。これに先駆け7月8日には、デジタル版のパリ・オートクチュールにて、このコレクションのインスピレーション源を披露しており、大きな期待の集まる中での発表となった。
今回のコレクション発表は、クリエイティブ ディレクターのピエールパオロ・ピッチョーリとアーティストのニック・ナイトとのコラボレーションによる、デジタルパフォーマンス形式となっている。ピッチョーリは、オートクチュールが持つ、人の手による細かく長い作業によって作られるというヒューマンな部分に着目し、人とデジタルの世界を一体化させることによって、ヴァレンティノのクラフツマンシップをデジタルな側面においても際立たせるアプローチをとった。
そこに登場するのは真っ白な14体のコレクションピースたち。長いシルエットを描くドレスを纏ったモデル達が暗い空間に浮かび上がり、その中をまるで浮遊しているかのように優雅に動くことで、服に活かされた職人技を際立たせる。白いドレスにデジタルプロジェクションによって映像を投影。様々なプリント、モチーフ、エンブロイダリーなどのイメージが乗せられ、非物質的な色と光が演出される仕組みだ。コレクションピースにはフェザー、フリンジ、ルーシュ、エアリー素材などモデルの動きをより幻想的に演出するディテールが多用され、またボリューミーなパニエや構築的なパフスリーブなど、ボリューム感のあるシェイプが映像を引き立てる。
作品の半ばで「NON VOGLIAMO ESSERE SUBITO GIÀ COSÌ SENZA SOGNI」という、イタリア人映画監督のピエールパオロ・パゾリーニの言葉が差し込まれ、後半はドレスそのものをデジタルマッピングなしで見せる展開に代わる。“夢もなくこのようになってしまいたくない”という意味のこの言葉は、パゾリーニが当時の画一的な大衆化を批判した文章の一部だが、ここには、世界がリセットされ、生まれ変わろうとしている現在において、ヒューマニティの大切さを強調し、商業目的よりもより夢やクリエイティビティへ回帰することへのピッチョーリからのメッセージがこもっているようだ。
文:田中美貴