繊維ニュース 編集部ブログ

2019 13 Mar

8年前の記憶

 【東京本社】8年前、福島県には手の良いシャツ工場がたくさんあった。気仙沼にも有数のジーンズ工場があり、多くのデザイナーズブランドが生産を委託していた。あの震災でシャツの縫製作業が止まり、ジーンズは津波で流された。委託していたデザイナーたちは工場に対し、文句や苦情を言わなかったと記憶している。当時、ジーンズを流されてしまった「アンリアレイジ」の森永邦彦デザイナーは「状況を聞いて言葉にならなかった。工場の人たちが無事だったので、少し安堵したが」と語っている。

 余震が続く中、何とか出荷したのだろう。ボタンの位置が大きくずれたシャツや、仕様書と違う大きなボタンを付けてしまったコートなど、普段では考えられないミスをしたままのサンプルを幾つも見た。単純な配色ミスも散見され、とても平常心で製作できる状況ではないことが、サンプルの仕上がりを見て理解できた。このサンプルを見て、涙ぐむ若手デザイナーもいたほどだ。必死で期日に間に合わせたのだろう。真面目で辛抱強い福島県人の気質を見たような気がした。あれから8年、当時の混乱が嘘のように、東京で展示会が行われている。福島の復興は進んだが、あの混乱を忘れることはできない。(市)