繊維ニュース 編集部ブログ

2019 17 Oct

たんすが不要だった時代

 【大阪本社】先日、服部緑地(大阪府豊中市)の中にある日本民家集落博物館を訪れる機会があった。17世紀から19世紀に建てられた日本各地の民家11棟が野外展示されているのを見るのは非常に楽しい。

 特に信濃秋山の民家の茅(かや)壁、土座(土間に直接茅などを敷き詰めムシロを敷いたもの)などは江戸時代中期の山奥の集落の暮らしをリアルに感じることができる。飛騨白川の合掌造りも趣き深い。

 ところで古民家を見て感じたことが一つ。どの民家にも農具などを収納するスペースは多いのに、たんすなど衣料品を収納する家具や空間が極めて少ない。

 そう思っていたら、ガイドから「この時代、山深い農村部にはまだ木綿がそれほど普及していなかったので、衣料品はわずかしか持っていない。だから、たんすなど衣類を保管するスペースはそれほど必要なかった」と説明された。

 衣料品があり余り、たんす在庫があふれ返る現代との違いに感嘆を禁じ得ない。だが、そういった感覚は既に江戸時代には都会の暮らしを知る文人たちも感じていたのだろう。信濃秋山を訪れた江戸時代後期の随筆家、鈴木牧之が「秋山紀行」を書いた理由かもしれない。(宇)