桑原 ゆう
《月の光言》作曲ノート
The day has finally come! Today, November 4th, we have the premiere of my new big Shomyo piece 'Mantra of Moonlight'!!
The following is its program notes (Sorry it's just in Japanese now so far...)
とうとう本日11/4(土)、声明のための《月の光言》初演です。会場で配布されるプログラムのために書いた作曲ノートを、一足先にこちらに載せたいと思います。
私が聲明という仏教声楽の世界を初めて知ったのは2009年のことで、それ以来聲明の取材を続けています。聲明のための大きな作品は、今回の「月の光言」で3作目となります。聲明のために曲を書くことは、日本人である私を再発見するようなことです。聲明ならではの様式感、古典の節回しに学びながら、作曲家として、いま新しい聲明曲を書くとはどういうことであろうかと、自問自答を繰り返しながら作曲しています。
「月の光言」は、天台宗と真言宗豊山派の僧侶たちによって唱えられ、テキストには、明恵上人の月の和歌数首、明恵上人が改めてその素晴らしさを見出した「光明真言」、そして「徒然草」第155段の一部が用いられています。
「あかあかや」の和歌を用いた冒頭は、明恵上人が松林のなか坐禅を組む様子が描かれた「樹上坐禅像」からインスピレーションを得て「月の光言」全体の序として作曲しました。僧侶たちの声を、松林にひそむ獣や魑魅魍魎の声に見立て、その唸り声の混沌のなか、明恵上人が月をともなって現れます。「あかあかや」は、感動の声をそのまま連ねたような和歌ですが、これこそが「歌」の本来の姿であろうと思います。ひとは、心を動かされる事があったとき、つまり、外から何か圧力がかかったとき、その緊張の状態から解放されるために、自身の内部に感じられる混乱を整えようと、思わず長くため息をつきます。そのような、ひとが極めて自然に取る動作から「ほころび出」た、言葉以前のひとつの声が、言葉の基礎であり、歌の基礎であるからです。「あかあかや」の和歌は、始めは一字ずつ、言葉が解体された「音」の状態で提示され、発声が独唱から僧侶全体に広がっていくとともに、徐々に意味が形成されていきます。
「問訊」作法を伴う「光明真言」二遍は、両宗派の聲明の特徴的な旋律形を行ったり来たりするような節回しを意識しました。続く「大行道」では、「光明真言」が3パターンの速さで唱えられ、それらが重なり合い、会場全体に光明真言の輪が広がります。
「かきつくる」「くまもなく」「くまもなき」の和歌は、その言葉のリズムや響きを活かしつつ、音と意味が分断されないように節付けしようとすると、聲明ならではの旋律形だけではうまくいかなかったため、能の謡の節回しも参考にしました。「徒然草」は、講式、表白などの語りに近い聲明の様式や、節談説教などを意識し、語りと節の間を揺れ動くような旋律が、導師とソリストとの間で取り交わされるように作曲しました。
終盤の天台宗の「くまもなく」と真言宗の「くまもなき」の掛け合いは、いつしか「あかあかや」の掛け合いとなります。「あかあかや」は母音「ア」をベースとした歌であり、その「ア」の音が光明真言に含まれる「ア」の字と重なり、さらに、無限の空間を意味する「阿」「吽」となって作品が締めくくられます。
新作部分で僧侶たちが用いる楽譜は、綿密に節を組み合わせたアンサンブルを実現するために、試行錯誤を経て新しく作ったフォーマットで書かれています。普段の古典の譜とは違う形の楽譜に、愛情を持って果敢に取り組んでくださる僧侶のみなさま、いつも学びの場を与えてくださる演出の田村先生に、深く感謝申し上げます。この作品が、聴いてくださるみなさまに、癒しだけでなく、何かを問いかけ、新しい気づきをもたらすことを願っています。
*



14:30からプレトークがあり、会場ではスコアの一部の展示もあります。《月の光言》の夜は、偶然にも満月だそうです!良い舞台になりますように。
Actually, the night of 4th is a full moon in Japan. It's a strange and nice coincidence! The only thing that I can do is trusting my monk performers and I'm sure they'll have a great performance!!
*
神奈川県立音楽堂・伝統音楽シリーズ - 聲明「月の光言(こうごん)」
2017年11月4日(土) 開演15:00 / 開場14:00 (14:30からプレ・トークがあります。)
@神奈川県立音楽堂 (神奈川県横浜市西区紅葉ヶ丘9-2)
「月の光言」古典聲明と新作聲明 (作曲: 桑原ゆう)
http://www.kanagawa-ongakudo.com/detail?id=34896
出演 / 声明の会・千年の聲 (迦陵頻伽聲明研究会と七聲会による)
構成・演出 / 田村博巳
チケット料金 / 一般: 4,500円、学生 (24歳以下): 2,000円
主催 / 神奈川県立音楽堂 [公益財団法人神奈川芸術文化財団]
託児サービス / 託児料: お子様お1人あたり2,000円 (マザーズ TEL: 0120-788-222)
お問い合わせ / 神奈川県立音楽堂業務課: 045-263-2567 (9:00-17:00、月曜休館)